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生活環境や栄養状態が悪化しているにもかかわらず、改善する気力がなく、周囲に助けを求めない状態を「セルフネグレクト(自己放任)」という。内閣府の調査では、セルフネグレクトの状態にある人は推計1万人だが、東邦大学看護学部(東京都大田区)の岸恵美子教授は「それは氷山の一角です」との見方を示す。
ごみ屋敷はセルフネグレクトの典型例
▽誰にでも起こり得る
ネグレクトは「無視する」「世話を怠る」という意味で、日本では育児放棄や介護放棄を指す言葉としてよく用いられる。セルフネグレクトとは、日常生活に必要な行為をしない、できないことにより自身の健康や安全が損なわれた状態だ。何日も風呂に入らない、必要な医療を拒否するといった行動が見られる。
岸教授は「“ごみ屋敷”はその典型例です。身体が著しく不潔、処方された薬を飲まない、食事を取らないなどもセルフネグレクトに含まれます」と説明する。
原因はさまざまだ。認知症や精神疾患などが関与する場合もあれば、配偶者との死別や病気の影響などがきっかけとなることもある。さらに、家族や近所とのトラブルなどで人間関係が悪化し、孤立してしまう例もある。「セルフネグレクトの状態に陥るのは決して特別なことではなく、誰にでも起こり得るのです。そして、原因が複数重なってくると、立ち直るのが難しくなります」と岸教授。
▽背景には虐待も
虐待とも深い関係がある。虐待を受けるのは高齢で病気を抱えている弱い立場の人などが多いが、他者から虐げられることで「自分は役立たずだ」「生きていても仕方ない」などと思い込みがちになる。岸教授は「特に加害者が自分の子どもである場合、親はそのように育ててしまった自責の念から、虐待の事実を語ろうとしません。黙って静かに死んでいけば、誰にも迷惑は掛からないと考えてしまうのです。まさに“消極的自殺”ともいえる状況になります」と話す。
近年、社会問題になっている高齢者の孤立死との関係も注目されている。孤立死した人の約8割が生前セルフネグレクト状態だった可能性があるとの調査報告もある。特に日本人の場合、自分からは助けを求められない人が多く、周囲が気付いた時には健康状態がかなり悪化しているケースが少なくない。
岸教授は「セルフネグレクトは命に関わる問題です。困った時に『助けて』と遠慮なく言える社会が切に求められています」と警鐘を鳴らす。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2019/06/07 07:00)
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