こちら診察室 膝の痛みと治療法の新たな選択肢
その「ひざ痛」変形性膝関節症かも?
軟骨のすり減りとは? 原因と治療法を解説 【第4回】
中高年の多くの方が悩む変形性膝関節症。50代以上の約半数が発症すると言われています[1]。膝(ひざ)の軟骨がすり減り、時間とともに進行するこの病気。「年齢のせい」と諦める方も少なくありませんが、そもそもなぜ軟骨はすり減るのでしょうか? 改善のための治療法と合わせて解説します。
◇膝軟骨はなぜすり減るのか? 原因は?
膝の軟骨は、脛骨(けいこつ)と大腿骨(だいたいこつ)の間にあり、膝の滑らかな動きを支えています。軟骨は水分やプロテオグリカン、コラーゲン線維からできており、衝撃を吸収するクッションの役割を果たしています[2]。しかし、年齢を重ねることで減少していき、軟骨の新陳代謝も衰えるため、徐々にすり減っていきます。
このように、軟骨のすり減りは年齢とともに進む「経年劣化」のようなもので、進行の速さは人それぞれ異なります。

健康な膝関節(左)と関節炎の膝関節(ひざ関節症クリニック作成)
◇軟骨がすり減りやすいのはどんな人?
中年以降になると、多かれ少なかれ軟骨のすり減りが見られるようになりますが、次に挙げる方々は特にすり減りやすいと考えられます。
・靱帯や半月板をケガした経験がある方
靭帯(じんたい)や半月板(はんげつばん)など、膝の位置を安定させたり、膝にかかる衝撃や荷重(かじゅう)を和らげたりする働きのある組織にダメージを負った経験がある方は、そうでない方に比べて軟骨のすり減る速度は速くなります。このような方は、軟骨同士のすれ(摩擦)を緩和するクッションが少ない、もしくは無い状態なので、軟骨も早くすり減るということです。
・肥満の方
歩行時、膝には体重の2〜3倍の負荷がかかります。肥満の方はさらに負荷が増し、軟骨のすり減りを早める原因となります。実際、体重過多は軟骨のすり減りを加速させると言われています。また、筋肉量の減少と体脂肪の増加を併せ持つサルコペニア肥満においては、重度の変形性膝関節症との関連が示唆される報告もあります[3]。
・女性
膝軟骨のすり減りが引き起こす膝の疾患(変形性膝関節症)は、女性の方がが統計上、圧倒的に多いです。特に閉経後の女性は骨、軟骨、筋肉を丈夫に保つ女性ホルモン(エストロゲン)が激減するのですが、こうしたことが影響していると考えられます。
◇軟骨がすり減ると何が起こるのか?
軟骨がすり減ってくると、膝に慢性的な痛みを感じるようになり、やがて骨の変形を来すようになります。いわゆる変形性膝関節症です。
・痛みを感じる
軟骨には神経がないため、すり減っても直接痛みを感じることはありません。しかし、削れた軟骨の破片(はへん)が関節内の滑膜(かつまく)を刺激し、炎症を引き起こすことで痛みが生じます。初期は動き始めに痛みますが、進行すると安静時や就寝中にも痛むようになります。
・膝を動かしにくくなる/骨が変形する
軟骨のすり減りが進み、脛骨と大腿骨が直接こすれるようになると、膝の動きが悪くなります。さらに、骨にトゲのような「骨棘(こっきょく)」や、穴が開く「骨のう胞」ができることも。O脚やX脚が進行し、外見からも変形が分かるようになります。
骨の変形は徐々に進むため、気付かないうちに悪化していることもあります。
検査から時間がたっている方は、再検査をお勧めします。

軟骨のすり減りがひどいと立っているだけで痛い(ひざ関節症クリニック作成)
◇軟骨のすり減り【変形性膝関節症】はどう治療するのか?
診察で判別した重症度に応じて治療を開始します。
初期は進行を遅らせる目的の保存療法がメインですが、末期に向かうにつれて痛みの根本にアプローチする手術療法を検討していきます。
・運動療法
筋力トレーニングでは、大腿四頭筋(だいたいしとうきん)など膝を支える筋肉を鍛え、負担を軽減し痛みを和らげます。ストレッチは筋肉をほぐし、関節の動きを改善し、有酸素運動は体重管理や脂肪燃焼に効果的です。
・保存療法
強い膝の痛みがあると運動を避けがちになり、筋力が低下。その結果、悪循環に陥ることがあります。保存療法の目的は、この悪循環を断ち運動を続けられるようにすること。痛みを抑えることで、運動療法へのモチベーションを維持しやすくなります。
主な方法として、薬物療法(内服薬・貼付薬)やヒアルロン酸注射等があります。
・手術療法
保存療法で十分な効果が得られない場合に、手術療法を検討します。
高位脛骨(こういけいこつ)骨切り術は、骨のバランスを矯正する手術です。
人工関節置換術は、関節を切り取って人工の関節に置き換える手術です。
利点は、術後は痛みをほとんど感じなくなることですが、正座のように深く膝を曲げる動作はできなくなります。

手術が受けられない人の病状の進行には打つ手立てがない(ひざ関節症クリニック作成)
◇新たな解決策
・再生医療は「軟骨すり減り」に伴う痛み治療の新たな選択肢
これまでは運動療法を除くと、薬やヒアルロン酸注射などの保存療法か手術が主な治療法でした。保存療法は痛みを和らげますが根本治療には至りません。しかし、再生医療は従来の治療では難しかった問題に対し、新たな解決策を提供すると期待されています。(了)

尾辻正樹理事長
尾辻正樹(おつじ まさき) 医療法人社団活寿会理事長。05年鹿児島大学病院初期臨床研修、07年同大学病院整形外科入局、11年埼玉県内の整形外科にて勤務、18年東京ひざ関節症クリニック銀座院入職、18年横浜ひざ関節症クリニック院長就任、22年から現職。
札幌ひざ関節症クリニックと仙台ひざ関節症クリニックの院長を兼任。日本整形外科学会認定専門医、再生医療学会認定医。
参考文献
[1]∧Yoshimura N, et al.: Prevalence of knee osteoarthritis, lumbar spondylosis, and osteoporosis in Japanese men and women: the research on osteoarthritis/osteoporosis against disability study. J Bone Miner Metab. 2009: 27, 620-628.
[2]∧立花 陽明「変形性膝関節症の診断と治療」理学療法科学20(3): 235-240, 2005
(2025/05/29 05:00)
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