医学部トップインタビュー

産学連携で可能性を広げる
地域基盤型教育を推進―滋賀医科大学

 滋賀医科大学は一県一医大構想に基づく新設医大の一つとして1974年、大津市に開学した国立単科大学である。医師不足、地域偏在を解消するという設置目的に沿って、地域医療を担う医師を輩出してきた。一方、産学連携を通じて、医療現場の課題解決や大学の研究成果を地域社会の発展につなげる取り組みも行っている。塩田浩平学長は「これからは医師も選別される時代。選ばれる医師になるためには、確固たる実力を身に付けて、努力し続けることが必要です」と話す。

 ◇地域への愛着を深める里親制度

 インタビューに応える塩田浩平学長

 地方の大学医学部にとって、地元に残って地域医療に貢献する医師を育てることは最重要課題である。入学試験の地域枠の設定のほか、滋賀医科大学では、「里親学生支援制度」というユニークな取り組みが功を奏して、プログラムに参加した学生の6割が滋賀県内に残るという。

 里親学生支援制度とは、滋賀県内で医師として働く卒業生が学生の「里親」になり、地域医療の現場を見せたり、課題について話し合ったりすることで、地域医療への関心を持ってもらおうというもの。さらに一般住民に「プチ里親」になってもらい、その地域や家庭を学生が訪問して、地域の人が何を考え、どんな生活をしているのかを体験する機会も設けている。

 「滋賀県は自然が豊かで生活レベルも比較的高い。厚生労働省が発表した2015年の都道府県別平均寿命では男性が全国1位で女性が4位。京阪神も近く便利で暮らしやすい県だと思います。本学は約8割が県外からの入学者ですが、卒業生のおよそ3分の1は滋賀県に残っており、新設医大の中では健闘している方だと言われます」と塩田学長は話す。

 ◇ユニークな研究に活路を

 産学連携を積極的に推進しており、17年からは県内の金融機関と協定を結び、銀行の顧客である中小企業との橋渡しをしてもらう仕組みをつくった。銀行の支店長らを対象に、滋賀医大の教育、研究、診療を理解してもらうための講習会を開き、修了者には認定コーディネーターになってもらう。

 「うちの大学でこういう研究成果があるという産業化の種(SEEDS)、病院などでこういうことができたらいいなというリクエスト(NEEDS)を小冊子にまとめて、関心を持った企業とマッチングをしていこうというものです」

 滋賀医科大学

 「SEEDS」には、「新たな高血圧治療薬の開発」「肩凝り、腰痛を減らすモノづくり」「金属製に代わる画期的な樹脂製手術器具」など実用化を目指した研究内容が、「NEEDS」には、「点滴ボトルの遮光カバー」「輸液ポンプが終了を知らせる機能」「手術後の体内遺残物検出システム」「寝た状態で体重測定できる検査機器」など医療現場で必要とされる製品が、それぞれ紹介されている。

 ◇起業家マインドを育てる

 学生への起業家教育の一環として、実現したいと思うアイデアを数分でスピーチする「ピッチコンテスト」を実施している。18年は8グループがエントリーし、医学部学生のグループの「FACE ID(顔認証機能)を活用した脳梗塞早期発見アプリ」が最優秀チームに選ばれ、学長から図書券を贈呈した。

 受賞すると海外研修プログラムへの参加資格が得られる。同年は発表したビジネスアイデアをもとにした試作品を作るために、カナダのオタワ大学で5日間の研修を行った。

 最優秀チームは、その後大阪で開催された外部のコンテスト「ミライノピッチ2018」(大阪イノベーションハブ主催)でも学生部門でNICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)賞を受賞、全国大会となる「起業家甲子園」への出場資格を得るなど、発展的な広がりを見せている。

 塩田学長は「いろいろな興味を持った学生がいます。これからの時代、医学部を出たから必ずしも医者になるというだけではなくなると思いますから、さまざまなことにチャレンジしてほしい」と学生たちの可能性に期待する。

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