高血圧〔こうけつあつ〕 家庭の医学

 日本高血圧学会で示す『高血圧治療ガイドライン2019』では、生活習慣の修正項目として6項目をあげています。

●生活習慣の修正項目
 1 食塩制限:6g/日未満
 2 野菜・果物の積極的摂取
飽和脂肪酸、コレステロールの摂取を控える
多価不飽和脂肪酸、低脂肪乳製品の積極的摂取
 3 適正体重の維持:BMI(体重[kg]÷身長[m]2)25未満
 4 運動療法:軽強度の有酸素運動(動的および静的筋肉負荷運動)を
毎日30分、または180分/週以上おこなう
 5 節酒:エタノールとして男性20~30mL/日以下、
女性10~20mL/日以下に制限する
 6 禁煙
生活習慣の複合的な修正はより効果的である
*カリウム制限が必要な腎障害患者では、野菜・果物の積極的摂取は推奨しない
 肥満や糖尿病患者などエネルギー制限が必要な患者における果物の摂取は80kcal/日程度にとどめる
(日本高血圧学会 編:高血圧治療ガイドライン2019,p.64より引用改変)


■食塩制限をする
 食塩制限の6g未満の6gは、天然の食品に含まれている食塩も含んだ量です。食べている量によっても違ってきますが、わたしたちは、卵や牛乳などから1日約2gの食塩をとっています。したがって、実際には調味料や加工食品からのとれる食塩は4gとなります。しかし令和元年の「国民健康・栄養調査」の結果では、日本人(20歳以上)は平均1日あたり10.1gの食塩をとっています。
 1日あたり6gを達成するには、3分の2に減らせばよいことになります。調味料を半分にすることは簡単にできますが、パンやハム、ソーセージ、チーズ、ちくわなどの加工品からの食塩を減らすには、それらからとっていたエネルギーやたんぱく質を、食塩のないものに変えなければならないことになり実際にはむずかしいでしょう。
 では、食塩を1日あたり6gにするのにはどうしたらよいでしょうか。そのためには、まず2つの知識が必要になります。1つは、日ごろ使っているしょうゆやみそ、カレールーなどの調味料や、パンやハム、ソーセージ、チーズ、干物などの食品にどのくらいの食塩が入っているかを知るということです。もう1つは、食塩をどんな食品からとっているかを知ることです。これらを把握するとどこを改善したらよいかがわかるからです。

□調味料に含まれる食塩量
 調味料に含まれる食塩量をみてみましょう。

●おもな食品に含まれる食塩相当量
食品名目安量重量
(g)
食塩相当量
(g)
調味料
食塩小さじ166.0
こいくちしょうゆ小さじ160.9
うすくちしょうゆ小さじ161.0
減塩しょうゆ(こいくち)小さじ160.5
だししょうゆ小さじ160.4
米みそ・淡色辛みそ小さじ2121.5
ぽん酢しょうゆ(市販品)小さじ160.5
焼き肉のたれ大さじ1181.5
めんつゆ(三倍濃縮)大さじ1171.7
ウスターソース大さじ1181.5
中濃ソース大さじ1171.0
オイスターソース大さじ1182.1
トマトケチャップ大さじ1170.5
マヨネーズ(全卵型)大さじ1140.3
フレンチドレッシング大さじ1150.9
和風ドレッシングタイプ(ノンオイル)大さじ1151.1
顆粒和風だし小さじ131.2
固形ブイヨン約1個52.2
穀類
食パン6枚切り1枚600.7
魚介類
まあじ(開き干し)-生1枚601.0
めざし-生4尾300.8
塩ざけ(切り身)1切れ601.1
うなぎ-かば焼1切れ600.8
しらす干し-微乾燥品大さじ150.2
さけ(水煮缶詰)1/4缶500.3
たらこ-生中1腹803.7
まぐろ(油漬、フレーク、ホワイト)-缶詰小1/2缶400.4
焼き竹輪小1本300.6
かに風味かまぼこ3本501.1
さつま揚げ中1枚400.8
はんぺん1/2枚600.9
肉類
ハム(豚)・ロース1枚200.5
ソーセージ(豚)・ウインナー2本300.6
ベーコン(豚)・ロース1枚200.4
焼き豚1枚200.5
乳類
プロセスチーズ小1個180.5
油脂類
ソフトタイプマーガリン(家庭用)大さじ1100.1
有塩バター大さじ1100.2
漬物・佃煮類
きゅうり-ぬかみそ漬4切れ301.6
なす-塩漬4切れ300.7
はくさい-塩漬1人分501.1
はくさい-キムチ1人分300.9
たくあん漬・塩押し大根漬3切れ301.0
らっきょう-甘酢漬1人分200.4
梅干し-塩漬1個101.8
梅干し-調味漬1個100.8
ひとえぐさ-つくだ煮1回分100.6
こんぶ-つくだ煮1回分100.7
いか・塩辛 1回分100.7
調理済食品
ハンバーグ-ステーキ(合いびき)1個800.7
即席中華めん-油揚げ-味付け
(インスタントラーメン)
1袋1006.4
カレー・ビーフ(レトルト)1袋2003.4
ミートソース1缶1001.5
トマト・ミックスジュース(食塩添加)-缶詰1缶1900.4
菓子類
しょうゆせんべい中2枚300.4
ポテトチップス100.1
くし団子(みたらし)1串500.3
いか・さきいか201.4
(日本食品標準成分表2020年版〈八訂〉をもとに作成)


 塩は小さじ1杯が6gです。しょうゆ(こいくち)は小さじ1杯が6gで、食塩量は0.9g、みそは小さじ2杯が12gで、食塩量は1.5gに相当します。この表で使っている大さじは、15mL、小さじ5mLです。はかるときには、粉物(塩、顆粒調味料など)は、よくふるって軽くつめて、すりきりではかり、液体は、表面ぎりぎりではかります(表面張力といって、液体はややこんもりします)。マヨネーズやみそは、ヘラなどできっちりつめた状態で、すりきりではかります。
 加工食品は、製品によって食塩量がかなり違うので、注意が必要です。それぞれに食塩量(食塩相当量)の表示があるので、実際には、その数値を見るようにするといいでしょう。食塩の化学名は、塩化ナトリウムといい、ナトリウム(Na)と塩素(Cl)からできた物質です。このうち、高血圧の発症に関係する成分はナトリウムです。食塩がナトリウムの量で表示されている場合には、下記の計算式で、食塩相当量を知ることができます。計算が面倒であれば、ナトリウム400mgが食塩1gと覚えておくと簡単です。

●ナトリウムから食塩量を求める計算式
 ナトリウム量(mg)×2.54÷1000 = 食塩(g)


 次にわたしたちがどんな食品から食塩をとっているかをみてみましょう。令和元年「国民健康・栄養調査」の結果では、食塩の約7割をしょうゆやみそなどの調味料からとっています。簡単に減塩する方法として、ふだん使っている調味料を、3分の2にすることができれば、4.5gとなります。
 しかし、このなかで減らすのがむずかしいものが、「その他の調味料」です。これにあたる調味料はコンソメの素、和風だしの素、めんつゆ、カレールーなどですが、どれも一律に半分にすると、味が薄くなると同時に、おいしさも半減してしまいます(この対策は後述します)。
 次に加工食品からの食塩量を見てみましょう。1日に3g強です。6gを達成するには、調味料を3分の2にすることに加え、加工食品からの食塩量は、1.5g程度にしなければなりません。漬物・佃煮をやめ、魚は塩蔵品(干物、みりん干しなど)をやめ、生鮮品にします。食パンやハム、ウインナソーセージ、ちくわ、チーズに含まれる塩も意外に多く、とりすぎに、注意が必要となります。「お酒のおつまみ」となるさきいか、いかの燻製(くんせい)、ナッツ類、間食に食べられているスナック菓子は、食塩のとりすぎになる落とし穴になりますので、注意しましょう。めやすとしては、パンを食べた日は、加工食品を控え、パンを食べなかった日は、加工品は1日に1回をめやすにとどめるのが、基本的な姿勢となります。

□食塩制限食をおいしくする工夫
 家庭でおこなうときの工夫をまとめます。

 1.酸味(酢、レモン、ポン酢、ゆずなど)や香辛料や香味野菜(しょうが、ねぎ、しその葉、ミント)を利用し薄味を補います。
 2.旨味を生かすおいしいだしを、じょうずに使うようにします。市販の和風だしやコンソメの素の多くは、食塩を含んでいますので、使わないほうがいいでしょう。市販でも無塩のものを選ぶか、時間のあるときに和風だしや、コンソメスープをまとめてとり、冷凍しておく方法もあります。冷凍する場合は、製氷皿などでつくりキューブ状にするか、ペットボトルでつくると扱いやすくなります。
 3.焦げやサクサクした食感を生かすようにします。
 4.カレールーの素、麻婆豆腐の素などの複合調味料は規定量の半分にします。もの足りなさを補うには、肉の量をふやしたり、たまねぎ、ねぎ、しょうがのように旨味や香味のある野菜をふやすなどの工夫をします。たとえば、カレーであれば、炒った小麦粉を用いてとろみをつけたり、具を炒めるときに、カレー粉をまぶすなどの工夫をします。あるいは、複合調味料を使った日は、加工品を使わないようにします。

■コレステロールや飽和脂肪酸を控える
 コレステロールの摂取量は、主治医の指示に従うべきですが、「コレステロールの多いものを避けてください」という程度の場合には、鶏卵を2日に1個程度にし、肝臓や内臓ごと食べる魚や貝類(ワカサギ、カキなど)を食べないようにすると、300mg/日くらいとなります。
 飽和脂肪酸を控えるには、獣鳥肉類、特にバラ肉など脂身の多い肉、霜降り肉などは使用を控えます。バター、生クリームなども少なくします。料理に使う油は植物油を中心にします。また、洋菓子、カップラーメン、市販のフライ類、ひき肉を使った冷凍食品は、予想外に動物性の脂肪が多いことがありますので要注意です。食品中に含まれるコレステロールの量は、以下の表を参照してください。

●食品中のコレステロール含有量
食品名重量
(g)
目安量コレステロール
(mg)
魚介類
あんこう5039
うなぎ-かば焼100230
すけとうだら・たらこ(生)251/2腹88
イクラ20大さじ1杯96
ししゃも-生干し201尾46
あゆ(養殖)401尾44
しらこ2072
はまち(養殖)801切れ62
子持ちがれい801切れ96
あなご4056
さんま80中1尾54
わかさぎ251尾53
さば801切れ49
煮干し10大さじ1杯55
さわら801切れ48
さけ801切れ47
まだら801切れ46
かずのこ(塩蔵)-水戻し201本46
あじ60中1尾41
さめ801切れ43
みなみまぐろ・赤身605切れ31
まかじき601切れ28
かつお(春獲り)6036
まいわし401尾27
みなみまぐろ・脂身302切れ18
しらす干し5大さじ1杯13
貝類
かき(養殖)705個27
しじみ2012
あさり-生3010個12
ほたてがい3010
その他の魚介類
いか100250
するめ20196
うに17大さじ1杯49
まだこ80120
くるまえび(養殖)452尾77
たらばがに10034
卵類
鶏卵・全卵60222
鶏卵・卵黄20M1個240
鶏卵・卵白300
乳類
アイスクリーム(普通脂肪)10053
普通牛乳20024
プロセスチーズ18小1個14
ヨーグルト(全脂無糖)10012
肉類
牛・肝臓-生60144
輸入牛・ばら・脂身つき6040
輸入牛・サーロイン・脂身つき6035
輸入牛・かたロース・脂身つき6041
輸入牛・もも・脂身つき6037
輸入牛・ヒレ・赤肉6037
豚・肝臓60150
豚・かたロース・脂身つき6041
豚・もも・脂身つき6040
豚・ヒレ・赤肉6035
ベーコン(豚)402枚20
ソーセージ(豚)・ウインナー302本18
ハム(豚)・ロース402枚24
若鶏・肝臓-生40148
若鶏・手羽(皮つき)501本55
若鶏・もも(皮つき)6053
若鶏・ささ身802本53
若鶏・むね(皮つき)6044
若鶏・もも(皮なし)6052
若鶏・むね(皮なし)6043
大豆製品
木綿豆腐1001/3丁0
糸引き納豆401パックTr
油脂類
マヨネーズ(全卵型)14大さじ1杯8
マヨネーズ(卵黄型)14大さじ1杯20
有塩バター13大さじ1杯27
ソフトタイプマーガリン(家庭用)13大さじ1杯1
調合油13大さじ1杯0
菓子類
シュークリーム60120
ババロア80120
カスタードプリン8096
クリームパン7069
ショートケーキ(果実無し)6084
カステラ3556
ドーナツ・イーストドーナッツ5510
どら焼6059
ミルクチョコレート408
あんパン7013
もなか400
練りようかん300
(日本食品標準成分表2020年版〈八訂〉をもとに作成)


■野菜・果物の積極的摂取
 野菜・果物に多く含まれている、カリウム・マグネシウム・食物繊維は、脂肪を制限しつつ、これらを摂取すると降圧作用が期待できるという報告もあるので、毎日とるようにします。目標量は野菜1日350g、このうち少なくとも100gは、ほうれんそう、小松菜、ちんげん菜などの緑色の野菜にします。1日5~6皿の野菜料理をとればこの量がとれます。いも類も大切な野菜です。100g(前述の350gのほか)がめやす量です。じゃがいもでは中くらい1個、サトイモなら3個程度になります。
 食べかたはお好みでかまいませんが、油を使うサラダや炒め物・揚げ物、食塩が多くなりやすい煮物類に偏らないようにします。サラダ、おひたし、酢の物、煮物などいろいろな料理でとると食塩や脂肪のとりすぎが防げます。
 果物は1日150g、だいたいにぎりこぶし1個くらいの量です。最近の果物は大ぶりになってきていますので、半分くらいになります。また果物には、果糖が多いため、過剰にとることはすすめられません。
 また、腎疾患の食事療法に記載がありますが、野菜・いも・果物にはカリウムが多いので、高血圧でも腎疾患がある人は、医師の指導を受けるようにします。

■標準体重の維持
 現在の体重が標準体重にくらべ90%以下(ただしBMI18.5以上、50~64歳では20.0以上、65~74歳では21.5以上、75歳以上では21.5以上)の人の場合、やせていることによる健康障害・栄養障害がなければ、むりに体重をふやす必要はないでしょう。
 BMIが25以上では、減らすようにします。適正な体重には個人差があります。BMI22~25の人は健康障害や疾病の有無を考慮し減量を検討する場合もあります。肥満の解消が急がれるような状況になければ、月に1~2kgのゆっくりしたペースで、体重を落としたほうが、リバウンドが少なく、健康障害が起こりにくいので、あせらず減量に取り組みましょう。日本肥満学会では、3%の体重減少であっても、肥満による健康障害の改善がはかれるとしています。
 月1kg体重を減らすには、いま食べている量から、およそ200kcal/日減らせばよいことになります。多くの場合は間食をやめる、アルコールをやめる、夕食の量を20%程度減らすなどでやせられますが、その際栄養バランスが適切でない場合が問題となります。
 食べかたの基本に戻って、なにをどれだけ食べたらよいかを見てください(食事摂取基準の活用のしかた)。1600kcalの基本が示してあります。成人女性であれば1600kcalを、成人男性であれば2000kcal(米飯を100g強を2回ふやせば約400kcalふえます)を基準にしましょう。
 いままでとくらべてあまりにも少なかったり、1週間実践してみて、体重が1kgも減るようであれば、主食をふやします。このとき、間食やアルコールでふやすことはおすすめできません。理由は、エネルギー量の問題ではなく、間食やアルコールを続けるという食生活が肥満を招きやすい食習慣となるからです。
 もし、ふとるようであれば運動量をふやします。運動ができない場合は、基本の食べかたから、主食、油脂類を減らしますが、減量効果が上がらない場合には、食事や運動以外の問題があることもあります。いま、かかっている医師や管理栄養士の指導のもとに健康障害を起こさないように減量に取り組まれてください。

■アルコールの制限
 エタノール(アルコール量)で男性は20~30mL/日(日本酒約1合)以下、女性は10~20mL/日以下にするようにします。
 アルコールは、水より軽いためアルコール20gは、体積に換算すると25mLになります。アルコール25mLは、およそ日本酒180mLのほか、ビールだと大ビン1本(633mL)、ウイスキーならダブル1杯(およそ60mL)、ワインはグラス2杯(およそ250mL)に相当します。

(執筆・監修:女子栄養大学 実習特任講師 茂木さつき)