治療・予防 2024/12/27 05:00
センチネル外傷
~深刻な虐待につながるサイン(東京都立墨東病院 大森多恵責任部長)~
加齢とともに筋力や体の活力が低下した状態を「フレイル(虚弱)」と呼び、生活の質(QOL)に直結する。最近、「口の虚弱(オーラルフレイル)」が注目されている。口の衰え、機能低下が全身のフレイルと要介護につながる悪循環の「入り口」となり、健康寿命を縮めるからだ。「食事を食べこぼす」「お茶や汁物でむせる」「硬い物が食べづらい」「滑舌が悪くなる」―などといったことがオーラルフレイルの具体的な兆候だ。
東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授は「オーラルフレイルは、口の機能のささいな衰えから始まり、やがて要介護につながってしまう、“老いの坂道”の入り口だが、その症状は、普段の食習慣や歯科医院への通院で気づける項目が多く、予防や早期発見が可能だ」と指摘する。
ドミノ倒しに衰えるオーラルフレイル
◇要介護のリスク上昇
東京大学が2012~16年に65歳以上の約2000人を対象に行った調査によると、オーラルフレイルに該当するグループは、そうではないグループに比べて4年後に介護を必要とするリスクが約2・4倍になることが分かった。この調査は、千葉県柏市の公民館などの公共施設での健康チェックと同時に行った。
専門家によると、うまくかめないので軟らかい物を食べるとかむ機能が低下し、食欲も落ちる。やがて低栄養に陥り、運動機能が低下するロコモティブシンドロームや筋肉量が低下するサルコペニアを招き、要介護の状態に至るという。
◇チェック方法は簡単
オーラルフレイルかどうかを調べるための簡単なチェック方法がある。(1)半年前に比べて、硬い物が食べにくくなった(2)お茶や汁物でむせることがある(3)義歯を使用している(4)口の渇きが気になる(5)半年前に比べて外出の頻度が少なくなった(6)割きいか、たくあんくらいの硬さの食べ物がかめる(7)1日に2回以上は歯を磨く(8)1年に1回以上は歯科医院を受診している―の8項目を自分でチェックする。
(1)~(3)を2点、(4)~(8)を1点とし、該当した項目の合計点が2点以下であれば、「オーラルフレイルの危険性は低い」、3点であれば「オーラルフレイルの危険性あり」、4点以上だと「危険性が高い」と判断してほしい。*注*(1)~(5)は「はい」を、(6)~(8)は「いいえ」を該当項目にカウント
オーラルフレイルのチェックリスト
◇65歳以上の4割「危険性が高い」
実際にはどうだろうか。サンスターが19年11月、20歳以上の男女600人を対象にインターネットを通じてリスクチェックを実施した。結果は「危険性あり」22・0%、「危険性が高い」は30・8%だった。5割以上がオーラルフレイルの危険にさらされていることになる。65歳以上になると、「危険性が高い」は38・0%にまで上昇した。
65歳以上では、43・3%が義歯を使用していた。オーラルフレイルの兆候である「口の渇きが気になる」「割きいか、たくあんくらいの硬さの食べ物がかめない」などの項目に、5人に1人以上が該当した。64歳以下については1日に歯を磨く頻度や年間に歯科医院を受診する回数が65歳以上に比べて少ないことなどが、「危険性あり・危険性が高い」が5割以上という結果につながったとみられる。
年代別の「危険性あり・高い」
◇早食い、食べたい物我慢
オーラルフレイルの恐れがある人たちの生活習慣はどうか。「忙しいときなどに早食いをしてしまう」51・8%、「普段硬い物をあまり食べない」36・6%などの傾向が強かった。
興味深いのは、「人とほとんど話さない日が週に1日以上ある」が36・6%に上った点だ。コミュニケーションが少なく、食事以外で口を使う機会が少ないことがオーラルフレイルにつながる可能性もある。
本当は食べたい物を我慢することもよくない。「危険性あり・危険性が高い」人は危険性が低い人に比べ、食べたい物を我慢している割合が2・7倍高かった。我慢している理由については、「歯の間に物が詰まる」が最も多く、「歯茎に痛み、出血などの不安がある」「かむ力が弱い」と続いた。
◇高齢者こそ口の健康維持を
飯島教授は「特に高齢期においては、日常生活や運動を行うためのエネルギーや筋肉を作るたんぱく質を十分に摂取するために、しっかり食事を取る必要があり、そのためには『食べられる口』を維持することがとても重要だ。また、お口の健康を維持することは、介護予防だけでなく『おいしいものを、おいしく食べる』『友達とおしゃべりを楽しむ』といった、生活をより充実したものにすることにもつながる」と話す。
その上で、「オーラルフレイルは、歯科医院に定期的に通院する、毎日のお口のケアをしっかり行う、かみ応えのある食品を献立に取り入れる、食事はなるべく一人ではなく大勢でわいわい食べることなどで対策が可能だ。これを機会に、口の健康維持に努めてもらいたい」と強調している。(鈴木豊)
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