2024/12/06 17:18
キャラクター活用による病院内での心地よい空間づくりの取り組み
名古屋市立大学大学院薬学研究科の星野真一教授、尾上耕一助教(現名古屋大学)は、第3世代のシークエンス技術であるナノポアシークエンサー1を用いてmRNA2のポリA鎖長を解析する実験系を新たに開発し、(1)リボソーム3タンパク質mRNAの3’末端ポリA鎖が長いほど、その翻訳4(タンパク質合成)の活性が高いことを証明しました。また、(2)リボソームタンパク質 mRNAのポリA鎖5がアミノ酸飢餓6時に伸長し、これがアミノ酸飢餓回復時のリボソーム生合成と速やかな翻訳再開を可能にしていることを証明しました。本研究成果は、米国科学誌『Cell Reports(セル・リポート)』電子版に2022年10月25日午前11時(米国東部時間)、(日本時間10月26日午前0時)に掲載されました。
【本研究成果のポイント】
・第3世代のシークエンス技術であるナノポアシークエンサーを用いてmRNAのポリA鎖長を解析する実験系を新たに開発した。
・ナノポアシークエンサーを用いた細胞内mRNAのグローバルな解析により、リボソームタンパク質の合成は、そのmRNA(TOP mRNA)の3’末端ポリA鎖の長さと正の相関があることをはじめて証明した。
・リボソームタンパク質をコードするTOP mRNAは、mRNA全体のおよそ30%を占めるが、アミノ酸飢餓時にRNA結合タンパク質LARP1によってポリA鎖が伸長する。
・アミノ酸飢餓時のポリA鎖伸長は、飢餓からの回復時のリボソーム生合成と速やかな翻訳再開を可能にする。
【背景】
発生の初期過程においては、転写がおこらず遺伝子発現はmRNAの3’末端に付加されたポリA鎖の長さによって制御されることが知られています。すなわち、ポリA鎖が長いとそのmRNAの翻訳が活性化されタンパク質が作られますが、ポリA鎖が短いとタンパク質の合成が停止します。体細胞においてもそのようなポリA鎖の長さと遺伝子発現との間には関連性があると信じられてきました。ところが、最近次世代シークエンサーを用いたハイスループット解析から体細胞においてはそのような相関がないとする論文が相次いで報告されました。
【研究成果の内容】
研究チームは、PCRによる増幅によってポリA鎖の分布に偏りが生じる危険性のある次世代シークエンサーの代わりに、mRNAのポリA鎖を増幅することなく直接解析できるナノポアシークエンサーを用いてポリA鎖長を測定する技術を新たに開発しました。これを用いて解析した結果、生体内のおよそ30%を占めるリボソームタンパク質等のmRNA(TOP mRNA7)においてポリA鎖長と翻訳との間に明確な正の相関を見いだしました。これまで、「発生の初期過程において解明されたポリA鎖と翻訳との相関が、体細胞においても成立するか」という点が大きな争点になっていましたが、本研究成果は相関があるとする考えを明確に証明しました。
また、同シークエンサーを用いたグローバルな解析等から、TOP mRNAのポリA鎖は、アミノ酸飢餓時にRNA結合タンパク質LARP1に依存して伸長することも明らかにしました。すなわち、LARP1がその標的であるTOP mRNAに対してポリAポリメラーゼをリクルートすることで、ポリA鎖が伸長すると考えられます。このような、アミノ酸飢餓時のポリA鎖伸長は、飢餓からの回復時にTOP mRNAのすみやかな翻訳を可能にし、その結果リボソームの生合成と翻訳がすみやかに再開することを明らかにしました(図)。
【今後の展開】
本研究では、生体内のおよそ30%を占めるリボソームタンパク質等のmRNA(TOP mRNA)について、mRNAポリA鎖長と翻訳の正の相関を見いだし、実際にポリA鎖の伸長反応がリボソームタンパク質の合成に不可欠な役割を果たしていることを証明しました。また、リボソームタンパク質のmRNAだけでなく、ミトコンドリアのmRNAについても同様な正の相関を見いだしており、今回のシークエンスで解析できなかった因子も含めると細胞内の大部分のmRNAについて翻訳におけるポリA鎖の重要性が今後明らかにされていくものと予想されます。
日本医療研究開発機構(AMED)肝炎等克服実用化研究事業「B型肝炎創薬実用化等研究事業:B型肝炎ウイルスの排除を可能とするゲノム編集治療の実用化に向けた包括的な研究」では、B型肝炎の根治治療を目的として、患者の肝臓にインテグレートされているHBVウイルスDNAを、ゲノム編集を使って切断破壊することを計画していおり、その際に用いる人工mRNAの発現効率を上げることが急務となっています。リボソームタンパク質のmRNAに存在するTOP配列は、mRNA医薬9として用いる人工mRNAの翻訳効率化に有効であることが明らかにされていますが、どのような条件下にmRNAの翻訳を効率化できるのかについては不明でした。今回の研究成果により、アミノ酸の栄養状況(mTORの活性状態)を操作することで、TOP mRNAのポリA鎖と翻訳を制御できることを明らかにしたことで、今後はmRNA医薬の翻訳効率化技術に本研究成果の知見が応用されることが期待されます。
【用語解説】
1. ナノポアシークエンサー:PCRによる増幅を基本としたシークエンス解析技術である次世代シークエンサーに対して、そのような増幅なしにDNA/RNAの配列を直接解析する第3世代のシークエンス技術
2. mRNA:遺伝子DNAの遺伝情報に基づいて転写によって合成され、翻訳によってタンパク質を作り出す鋳型RNA
3. リボソーム:mRNAを鋳型にしてタンパク質を作り出すタンパク質合成装置。
4. 翻訳:mRNAを鋳型にしてタンパク質を作り出す反応であり、生体内においてはリボソームによって反応が触媒される。
5. ポリA鎖:mRNAの3’末端に付加されている構造であり、mRNAの安定性と翻訳の二つの過程において、転写後の遺伝子発現に大きく寄与している。
6. アミノ酸飢餓:アミノ酸が枯渇した状態にすること。
7. TOP mRNA:5’末端にオリゴピリミジン(TOP)配列を有するmRNAであり、リボソームタンパク質や翻訳因子などを主体とするmRNAが含まれる。
8. mTOR:細胞の増殖や成長を制御する司令塔としてはたらくタンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)複合体であり、アミノ酸などの栄養状態に応答して、細胞内のタンパク質合成(翻訳)を制御する。
9. mRNA医薬:生体成分であるmRNAを人工的に合成し、これを生体内に投与することで生体にとって好ましいタンパク質を作り出す次世代の医薬
【原著論文】
米国科学誌『Cell Reports(セル・リポート)』
論文タイトル:mTOR- and LARP1-dependent regulation of TOP mRNA poly(A) tail and ribosome loading(mTORとLARP1に依存したTOP mRNAポリA鎖とリボソーム会合の制御)
著者:Koichi Ogami, Yuka Oishi, Kentaro Sakamoto, Mayu Okumura, Ryota Yamagishi, Takumi Inoue, Masaya Hibino, Takuto Nogimori, Natsumi Yamaguchi, Kazuya Furutachi, Nao Hosoda, Hiroto Inagaki, Shin-ichi Hoshino*
研究施設:名古屋市立大学
【謝辞】
本研究は日本医療研究開発機構(AMED)肝炎等克服実用化研究事業「B型肝炎創薬実用化等研究事業:B型肝炎ウイルスの排除を可能とするゲノム編集治療の実用化に向けた包括的な研究」(22fk0310515s0401)の助成をうけ、JSPS科学研究費補助金基盤研究(B)( JP20H03635 and JP21H02406)、若手研究(JP20K15719 and 22K06925)、武田科学振興財団の支援により行われました。
【お問い合わせ先】
《研究全般に関するお問い合わせ先》
名古屋市立大学大学院薬学研究科
教授 星野真一
〒467-8603 名古屋市瑞穂区田辺通3-1
E-mail: hoshino@phar.nagoya-cu.ac.jp
《広報に関するお問い合わせ先》
名古屋市立大学 総務部広報室広報係
名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
TEL:052-853-8328 FAX:052-853-0551
E-mail:ncu_public@sec.nagoya-cu.ac.jp
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