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大人の近視 ~成人が知っておくべき目の病気~ 【第8回】

 「私は目が悪いから」と視力に自信のない方々が言います。理由は近視が多いでしょう。近視とは目のピントが近くに移り、遠くが見えなくなる状態で、その正体は目の形が前後に伸びて変形することです。そのため、近視が強くなればなるほど、さまざまな目の病気になりやすいです。

 本連載の目的は病気のリスクを知って、正しく対策をしていただくことにあります。近視と関連する病気には網膜剥離緑内障近視性黄斑変性があります。

 以下の病気には近視が無くても(無いと思っていても)なることがありますので、ぜひ読んでみてください。

 ◇ふわふわと動くものが見えたら要注意!

 【網膜剥離】 近視が強くなると目の前後の長さが伸びます。目の構造が引き伸ばされ、網膜も同様に伸びて薄くなり、孔(あな)が開きやすくなります。

 網膜とは目の中のカメラのフィルムに当たる、光を感じる部分です。網膜に孔が開くと、少し時間がたってそこから網膜が剥(は)がれていきます。これを裂孔原性網膜剥離と呼びます。

 近視の程度は強くなればなるほど網膜剥離の危険度は高まり、強度近視になると、10〜20倍以上、網膜剥離になりやすいと言われています。

 引き伸ばされ薄くなった網膜に孔が開くきっかけは、加齢に伴い網膜の内側に詰まっている硝子体が年齢とともに縮んで網膜を引っ張るからです。この変化はいわゆる飛蚊症を招きます。

 硝子体は、ほぼ透明のゼリーのような組織なのですが、縮むとシワやにごりが発生し、網膜に影を落とします。その結果、ふわふわ動くものが見えるようになり、この症状を飛蚊症と呼びます。

 硝子体が縮む時に、網膜から問題なく外れてくれればよいのですが、そうならずに網膜が破れてしまうと孔が生じるわけです。必ずしも飛蚊症があるからといって網膜に孔が開いているとは限りません。しかし、網膜剥離の重要なサインの一つです。

網膜の孔が開いた状態(左)と網膜剥離

 近視だけでなく、網膜の端の方が薄くなる体質の方もおられ、同じように網膜剥離になりやすいです。

 まずは飛蚊症が出たらすぐに眼科を受診しましょう。孔だけで剥がれていない場合は、レーザー治療を行います。きちんと治療できれば網膜剥離に移行することはまれで、できるだけ剥がれる前にこのタイミングで治療すべきということになります。

 網膜剥離になったら緊急手術!

 「さて、今から入院手術を行いましょう」。網膜剥離の診断が下ると、緊急手術が組まれます。というのも、網膜が剥がれ出して中心の黄斑まで及んでしまうと、視力が元通りにならなかったり、視力が1.0でもひどく歪んで見えたりするという後遺症が出ることがあるからです。黄斑が剥がれるまでに手術を急ぐ、そのための緊急手術になります。

 目の病気にも幾つか緊急性の高いものが存在し、網膜剥離はその代表格の一つです。

 網膜剥離は40代ごろから生じてきます。手術は硝子体手術を行います。これは、目の内側から引っ張っている硝子体を切除し、網膜の下に溜まっている水を抜き、孔の周りをレーザー治療で固めます。網膜がくっつく(復位する)率は90%以上ですが、やはり剥がれる前に治療する方が負担が少ないです。

 そのための健診が重要です。また、網膜の端が薄くなる体質の方は少ない頻度ですが、10〜30代でも網膜剥離が生じることがあります。その際は硝子体の変化が少ないので、目の外からシリコンのバンドを巻く強膜内陥術という術式を行います。

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