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大人の近視 ~成人が知っておくべき目の病気~ 【第8回】
【緑内障】緑内障は日本の失明原因の1位であり、40歳以上の5%に存在するとされますが、近視があるとさらになりやすいとされます。緑内障は網膜の一部の神経がやせて薄くなっていき、その部分の視野が欠けていく病気です。
まず緑内障があるかどうかを判定するには、視神経乳頭という神経の部位を確認します。近視が強くなると、視神経乳頭は本来の丸型から傾いて縦長の形に変わっていきます。この所見を乳頭傾斜と呼びます。緑内障があるかどうかの判断は視神経乳頭の中心の白い所(陥凹)が拡大することで判断するのですが、乳頭の傾斜のためこれを判断するのが大変に難しいです。
人間ドックや市民健診などでは、眼底写真を撮って緑内障の有無を確認してくれている場合があります。しかし、強度近視の方は乳頭傾斜のため眼底写真で判定することが難しく、判定不能になることが多いです。
精密検査で光干渉断層計という断層写真を撮ると確認できますが、これを受けるには眼科を受診する必要があります。まとめると、近視が強ければ緑内障の健診は一般健診では歯が立たず、眼科を受診して確認を受ける必要があるということです。
◇近視が原因の黄斑変性がある
【近視性黄斑変性】近視の中でも、成人してから近視がどんどん進行していく病的近視というものがあります。病的近視になると、網膜のいちばん底のところにある部分(ブルッフ膜)が裂けてひび割れ、新生血管が生えること(近視性脈絡膜新生血管)や、神経が極端にやせてしまう(近視性網脈絡膜萎縮)ことがあります。これらをまとめて近視性黄斑変性と呼びます。
新生血管が生じると、ものが歪んで見えたり中心の視野が欠けて見えたりするようになります。治療は加齢黄斑変性と同じ、抗VEGF薬を目に注射します。近視性脈絡膜新生血管は発症後1週間以内に治療すべきとされ、これも緊急で治療すべき疾患の一つです。極端に近視が強い方で、物が歪んで見えたら設備の整った眼科へ大急ぎで受診するべきということになります。近視性網脈絡膜萎縮は現在治療法が存在しません。
ゆっくりと視力が下がるため、眼科におけるリハビリであるロービジョンケアの導入が必要になる場合があります(第10回連載で詳細を記載する予定です)。近視性黄斑変性は失明原因統計の第4位とされています。
近視性黄斑変性はたくさんの検査機器を用いて調べる必要がありますので、比較的大きな眼科で診てもらうのが良いでしょう。
ちなみに、病的近視を除いて、成人してから基本的には目の前後の長さは伸びません。成人してから近視が出た人の割合が多くあったという調査もあるようです。
しかし、これは近くを見すぎることによって目のピントを司る毛様体筋が緊張し続ける「調節緊張」という状態ですので、ここで述べた問題になる近視とは異なります。調節緊張は、スマートフォン等の使用によって近くを見ることが多い我々にとって現代病とも言えます。
◇近視の方にとって眼科検診は特に大切!
第1回の記事で述べた通り、日本人の眼科検診に対する意識はとても低いです。今回は触れませんでしたが、近視の方は白内障も早く訪れますし、強度近視に合併する近視性斜視や黄斑円孔網膜剥離といった特殊な病気もあります。
健康のありがたみは失われてから分かるとよく言われますが、それを甘んじて受け入れるべきでしょうか。網膜剥離や緑内障は適切な健診を受けることで悪化を未然に防ぐことのできる病気です。現在の目の状態を確認し、より良い生活を送っていただけたらと思います。(了)
岩見久司医師
岩見久司(いわみ・ひさし) 大阪市大医学部卒、眼科専門医・レーザー専門医。 大阪市大眼科医局入局後、広く深くをモットーに多方面に渡る研さんを積む。ドイツ・リューベック大学付属医用光学研究所への留学や兵庫医大眼科医局を経て、18年にいわみ眼科を開院。老子の長生久視(長生きして、久しく目が見えている状態)が来る時代を願い、22年に医療法人社団久視会に組織を変更した。現在は多忙な診療を行う傍ら、兵庫医大病院で非常勤講師として学生や若手医師に対して教鞭をとる。
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(2024/12/25 05:00)
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