ダイバーシティ(多様性) 障害を持っても華やかに
聞こえる皆さんはどうやって言葉を覚えていってる?
~難聴児は教えられた言葉しか知らない~ (ソニー出身、デフサポ代表取締役 牧野友香子)【第11回】
◇一つの言葉を話す前にその言葉を平均1000回聞いている
だいたい赤ちゃんは1000回以上その言葉を聞いて、初めて聞いた言葉を話すと言われています。聞こえる子どもたちは、意識しなくても自然と耳に音が入りますが、聞こえないと、、、そうなんです。皆さんの想像通り、耳から言葉が入ってこないので、当然、言葉を耳で聞いて、話すといったことが難しくなります。
両親の会話を聞いてる赤ちゃん
こういった話をすると、たまに「聞こえないなら、本を読めば大丈夫じゃないの?」と言う人もいらっしゃるのですが、0〜3歳といった最初の言語獲得時期には、自分で本を読んだりしませんし、最初は絵本を読んでもらったりと、話し言葉から理解している人がほとんどですよね。そして自分で本を読んで言葉を理解するにも、ある程度、言葉の土台がないと、内容も理解できないため「本から言葉を学習する」というのは、皆さんが思っている以上に意外と高度なことなんです。
◇聞こえる人の耳は実はすごい優秀!
実は聞こえる人は、家族内の会話で1対1で教えてもらう言葉だけではなく、それ以上にいろんな言葉を耳にしています。
例えば、お母さんと、お父さんが話している会話を聞いて、いつの間にか知らない単語を覚えていたり、駅構内での放送を聞いて、新しい単語を知ったりと、そのときに言葉として表出がなくても、いろんな言葉を無意識のうちに何度も聞いて覚えていってるんですね。
そういったことが難聴児には難しいため、第一言語として日本語を使う場合は、幼少期から「人工内耳や補聴器」を使いこなすための療育(発達支援)や、言葉を増やすための療育などに時間を割くことになります。
◇カクテルパーティー効果って知ってますか?
例えば、皆さんカフェで会話しているときに、隣の席ですごく盛り上がっていて、それが自分に興味のある話の場合、自然と「ん?何の話だろう?」ってキーワードを拾って聞きますよね。例えば好きな野球の球団の話をしていたら、いつの間にか耳がダンボになっているかもしれません。
そうやって普段は聞き流しながらも気になるキーワードだけ拾ってみたり、電車の中で盛り上がってる女子高生の話をも盗み聞きしてみたり、といった出来事がたくさんあると思います。皆さん当たり前のように意識せずやっていると思いますし、それですごく疲れる・・・ということはないと思います。しかし、実はこういったスキルは聞こえる人にしかありません。
他にも、学校や飲食店など、周りが少しざわざわしていても、聞きたい人の言葉を聞くこともできますよね?当たり前のように、友だちや一緒に行ったメンバーの話だけをピックアップして聞いていますよね?そして、そのときに周りの人がワイワイしていたり、キッチンからタイマーの音や食器の音、水道の音がしていたりしても、全く聞こえなくなっちゃう!ということはなく、そんなに気にならず会話が楽しめると思います。
これらを当たり前のようにこなしている、聞こえる人の耳ってやっぱりすごい!といつも思っています。
人気キャラクターを使った、子ども向け補聴器=リオン
人工内耳や補聴器はあくまでも機械です。なので、どうしても本来の耳ほどの機能はまだありません。例えば、雑音のある中で、三人が同時にボイスレコーダーに向かって話したとします。
そのボイスレコーダーを聞くと「音」は入っていると思います。「人が話している」のも分かると思います。でも「誰がどんな話をしたか?」などをスムーズに聞き取ることは難しくなります。
それと同じことが人工内耳や補聴器で起きており、話し掛けられたことは分かっても、何の話かが分からないことが多々あります。
今は機械の性能も良くなっているので、昔に比べると、だいぶ聞き取り能力の上がっている難聴児・者が増えていますが、それでも日常生活を過ごす中で、難しいことはたくさんあります。
(※もちろん、ひと口に聴覚障害者といっても多種多様な人がいますので、補聴器・人工内耳を活用して聴覚活用をしている人もいれば、私のように補聴器を着けても、あまり聞こえない人もいますし、手話などを母語とし、補聴機器を活用せずに過ごす人もたくさんいます。)
◇そんな難聴児へ、どうやって言葉を教えるの?
これまで話してきた通り、聴覚障害児の聞き取りは千差万別ですが、今はある程度会話ができる子どもたちが増えています。しかしながら、会話ができるから安心というわけではありません。
難聴児の場合は、直接親御さんから教えてもらった(直接声掛けをしてもらった)言葉しか知らないことが多くあります。
なので、家庭でよく使う言葉は比較的つまずかなくても、ある一定の年齢を超えると、「そんな言葉も知らないの!?」というようになりがちです。
例えば「コップ」にはいろんな種類があって、湯飲み、マグカップ、コップ、グラス、ワイングラス、ティーカップ、といった言い方があります。
ただ、家庭の中では「コップ取って〜」などということが多いですよね。そして「コップ」が分かれば会話も成り立つので安心してしまいます。聞こえる親御さんは自分自身は自然と覚えてきているので、聞こえない子どもがどういうところでつまずくのかが分からないんですね。
でも皆さんも同じなんです。家庭では「コップ」と使うことが多い中、どうしてタンブラーや、湯飲みを覚えたのでしょうか?それは耳が聞こえるから、テレビや、大人同士の会話など、いろんなところで知らず知らずのうちに耳にしているんですね。
人工内耳や補聴器などの補聴機器の発達に伴い、比較的、家庭などでの日常会話はなんとかできる子どもたちが増えている部分は、すごく時代の技術の恩恵を受けているのですが、逆に上記のように簡単な会話ができると、親御さんが「言葉を意識的に使う」ことが少なくなってしまいます。その結果として、中学生や高校生になってもカップ、グラス、湯飲みといった言い方を知らない子どもたちが増えています。
問題はそれだけではありません。日常会話に問題がなくても、勉強や物事を考えるための言葉が身に付かないといった問題点につながることがあります。
その言葉の話については次回、お話ししていきたいと思います!(了)
牧野友香子さん
▼牧野友香子(まきのゆかこ)さん略歴
株式会社デフサポ 代表取締役
生まれつき重度の聴覚障害があり、読唇術で相手の言うことを理解する。
幼少期にすごく良いことばの先生に出会えたことでことばを獲得し、幼稚園から中学まで一般校に通い、聴者とともに育つ。
大阪府立天王寺高等学校から神戸大学に進学し、一般採用でソニー株式会社に入社。
人事で7年間勤務。主に労務を担当し、並行してダイバーシティの新卒採用にも携わる。
第1子が50万人に1人の難病かつ障害児だったことをきっかけに、療育や将来の選択肢の少なさを改めて実感し、2017年にデフサポを立ち上げ、2018年3月にソニーを退職し、聴覚障害児の支援に専念。デフサポでは聴覚障害児の親への情報提供、ことばの教育、就労支援を中心に実施。
2020年より多くの人に難聴に興味を持ってもらいたい!とYouTubeでデフサポちゃんねるをスタートする。
(2021/07/05 05:00)
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