インスリン注射療法

 以前は注射治療といえば、インスリン注射療法だけでしたが、今はインスリン製剤とGLP-1受容体作動薬の2種類があります。

■インスリン療法
 インスリン注射は、下記のような場合、使われます。

 ①糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧性非ケトン性昏睡(こんすい)などいちじるしい代謝異常がみられる場合
 ②インスリン注射が不可欠な1型糖尿病
 ③2型糖尿病であって急性感染症や大きな外傷、手術を受ける場合、腎障害や肝障害を合併した場合
 ④糖尿病の妊婦や妊娠糖尿病で、食事療法では血糖管理できない場合
 ⑤副腎皮質ステロイド薬の投与を受け、糖尿病管理が悪化した場合
 ⑥2型糖尿病であっても高血糖がいちじるしくケトーシスを起こしている場合
 ⑦食事療法、運動療法、経口糖尿病薬療法によっても、よい血糖管理が得られないすべての糖尿病患者

 インスリン製剤には作用時間によって超速効型、速効型、中間型、超速効型または速効型と中間型インスリン製剤の混合製剤、持効型溶解製剤、超速効型と持効型溶解インスリンを混合した配合溶解インスリン製剤に分類されます。また、インスリンのアミノ酸構造にもとづいて、ヒトインスリン製剤とインスリンアナログ製剤に分けられます。後者には、皮下注射後すみやかに吸収される超速効型インスリンと超速効型と中間型の混合製剤、さらに皮下注射後ゆるやかに吸収され、作用時間の長い持効型溶解インスリンがあります。
 古くはバイアル製剤だけでしたが、現在はペン型インスリン注射器用のカートリッジ製剤(カートリッジを交換するもの)、一体型の使い捨てタイプのプレフィルド/キット製剤があり、便利になりました。
 どのインスリン製剤を用いるかは主治医と相談して使い勝手のよいものに決めることになります。インスリンペン型注入器やペン型キット製剤の使いかたについても、使用法が説明されているパンフレットをよく読み、十分な説明を受けるようにしてください。
 インスリンの投与(注射)法も以前にくらべて進歩しています。その背景として、糖尿病をもたない人と同じような血中インスリンのパターンを再現することによって厳格な血糖管理が可能なこと、そうすれば腎症や網膜症などの合併症の発症や進行を抑えることができることがあきらかになったからです。
 速効型(または超速効型)インスリンと中間型または持効型溶解インスリンを併用して1日3~4回皮下注射して、食事内容や活動量を考慮し、血糖自己測定(SMBG)を実施することで、できるだけ正常人と同じようなインスリンの血中パターンを再現し、厳格な血糖管理をめざすのを頻回注射法といいます。これは強化インスリン療法の一つです。
 1型糖尿病の血糖管理には強化インスリン療法をおこないますが、2型糖尿病においても厳格な血糖管理をめざして強化インスリン療法をおこなうことは少なくありません。図に、代表的なインスリン投与法を示します。超速効型インスリンは食直前に皮下注射します。

 皮下注射は腹壁皮下、上腕外側、大腿外側に注射することが多いですが、同じ場所に何回も注射せずに、2~3cmほどの間隔で、上記の場所を広く使って注射することが大事です。どうしても、注射することが習慣化すると同じ場所ばかりになりがちなため、1年に1回か2回、よく注射をしている皮膚が盛り上がっていないか、観察してください。
 強化インスリン療法のもう一つは、携帯型のインスリン持続注入ポンプを用い、皮下に注射針を刺入して、常時少量の速効型(または超速効型)インスリンを投与する持続皮下インスリン注入療法(CSII)です。この方法は、皮下注射をいろいろ工夫しても血糖値が不安定な人に用いられます。この方法をおこなう場合には、本人はもちろん、家人も含めて、インスリンポンプの使用法や起こりうるトラブルについての十分な知識と対処法の習得が必要です。
 インスリン療法をおこなう場合には、血糖自己測定を併用すると日常の血糖値を把握できるので、インスリン投与法の検討や投与量の調節をおこなう際に役立ちます。測定用の試験紙・電極(センサー)は、インスリン治療中の場合には医療保険の適用を受けることができます。
 血糖自己測定をおこなう場合には、きちんとデータを記録し、受診時に主治医に持参してください。健康保険上、必ず持参する必要があります。自己管理ノートやSMBGノートなどを使用すると便利です。どのような時間帯に測定するかについては主治医と相談してください。
 インスリン療法の副作用では低血糖が重要です。特に1型糖尿病の場合には、空腹感、冷汗、手指のふるえ、動悸(どうき)、倦怠(けんたい)感、目のちらつき、集中力の低下などの症状がみられることが多く、対処が遅れてさらに低血糖が進むと昏睡(こんすい)におちいることがあります。インスリン注射をしている人は常に低血糖に備えて、砂糖、ぶどう糖、キャンディ、ビスケット、ジュースなどを携行してください。また「私は糖尿病です」ということを示したカードや「糖尿病連携手帳」(日本糖尿病協会編)などを常に携帯し、不測の事態に十分に備えてください。

 インスリン療法のそのほかの副作用としては、注射部位の皮下脂肪の増加(リポハイパートロフィー)や減少(リポアトロフィー)、インスリンアレルギー、インスリン浮腫などがありますが、皮下脂肪の増加をのぞいてはいずれもまれです。

(執筆・監修:東京女子医科大学附属足立医療センター 病院長/東京女子医科大学 特任教授 内潟 安子)
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