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更年期は女性だけじゃない!
~婦人科医が教えるウソ・ホント~
「更年期障害って、女性だけの問題でしょ?」。そう思っているなら大きな誤解です。更年期障害は確かに閉経とセットで語られることが多いため、女性だけがなるものと考えられがちです。でも、実際には男性にも類似の症状があり、誰にとっても他人事ではありません。今回は、婦人科医の立場から、更年期障害にまつわるウソとホントを分かりやすく伝えます。

更年期障害はホルモンの変化によって起こる(イメージ画像)
【ウソ1】「年齢のせい」だから仕方ない
更年期とは女性の場合「閉経をはさんだ前後10年間」を指します。閉経は50歳前後に起こるため、45〜55歳ごろがいわゆる更年期に当たります。
この時期は卵巣の機能が低下し、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量が急激に減少します。エストロゲンは体温調節、感情のコントロール、骨の代謝など、実にさまざまな働きを担っています。急減すると自律神経のバランスが崩れ、のぼせ・ほてり、頭痛、いらいら、不眠などの症状が表れます。
年齢はきっかけにすぎず、問題の本質はホルモンバランスの急激な変化です。
【ホント1】人により症状もつらさも違う
同じ年齢であっても、まったく症状が出ない人もいれば、日常生活に支障を来すほどつらい症状が出る人もいます。こうした違いには、もともとの体質だけでなく、ストレスの多さ、家庭や職場の環境、睡眠の質、既往歴など、心と体の「総合的な負担」が大きく関係しています。つまり、エストロゲンの減少だけでは語り切れない、複雑な背景があるのです。

男性にも更年期障害に似た症状がある(イメージ画像)
【ウソ2】男性にはない
男性にも「加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)」という「男性版更年期」とも言える状態があります。40〜60代に多く、主にテストステロンという男性ホルモンの分泌量が緩やかに減少していくことで、やる気が出ない▽集中力が続かない▽いらいらする▽疲れがとれない▽勃起障害(ED)▽睡眠の質が悪い―といった症状が表れます。女性のように急激な変化ではないため、気付かれにくく、単に「年のせい」「仕事の疲れ」と見過ごされがちです。
【ホント2】治療できる
「更年期は我慢するしかない」と思っていませんか? 実は、治療によって症状を軽減したり、コントロールしたりすることが可能です。治療法としては次のようなものがあります。
〔女性〕
● ホルモン補充療法(HRT):不足しているエストロゲンを補う。のぼせ・ほてり・発汗などの症状に有効。
● 漢方薬やサプリメント:自然なアプローチを好む方に。個々の体質に合わせた処方がポイント。
● カウンセリングや心理療法:ストレスや心の問題が症状に影響している場合に効果的。
● 生活習慣の見直し:バランスの取れた食事、軽い運動、十分な睡眠なども大切。
〔男性〕
● テストステロン補充療法:不足している男性ホルモンを補い、やる気や活力を回復させる。
● 生活改善と栄養指導:食生活の改善やストレスマネジメントも大切。
● 精神的サポート:抑うつ傾向がある場合には心療内科のサポートも検討。
【ウソ3】閉経後は婦人科に行かなくていい
閉経後こそ婦人科のサポートが重要な時期です。
閉経後は骨粗しょう症や動脈硬化、膣(ちつ)の乾燥・萎縮などの不調が出やすくなります。子宮や卵巣に関わる病気のリスクもゼロではありません。例えば、「不正出血があっても、もう生理は終わっているから気にしない」という方もいますが、とても危険です。閉経後の出血は子宮体がんの初期症状の可能性もあります。
年に1度の婦人科健診を続けることが自身の安心にもつながります。
【ホント3】パートナーや家族との会話も大切
更年期の症状は、自分でも説明できない不調が多く、他人に理解されにくいのが特徴です。例えば、「ちょっとしたことでいらいらしてしまう」「なんとなく気分が落ち込む」といった感情の波は、周囲にとっても戸惑いの原因になります。そんなとき、「今はホルモンの変化でつらい時期なんだ」と当事者の気持ちに寄り添うことは、関係をぎくしゃくさせないためにも大切な一歩となります。
男性パートナーが更年期の場合も同じです。「最近、夫の元気がないな」「前より怒りっぽいかも」と思ったら、「もしかして更年期かもしれないね」と優しく声を掛けてみてください。
◇ケアすれば楽に
更年期は体も心も大きな変化を迎える「人生の節目」です。でも、それは「終わり」ではなく、「次のステージへの準備期間」でもあります。
つらさを我慢する必要はありません。症状が出たら、まずは婦人科や内科など専門の医師に相談してください。「こんなことで受診していいのかな?」と思わず、あなたの声を聞かせてください。
更年期を知り、正しく向き合うことで、これからの毎日がもっと軽やかになりますように。(了)

沢岻美奈子院長
沢岻美奈子(たくし・みなこ)
琉球大学医学部を卒業後、産婦人科医として25年以上の経歴を持つ。2013年1月、神戸市に女性スタッフだけで乳がん検診を行う沢岻美奈子女性医療クリニックを開院。院長として、乳がんにとどまらず、女性特有の病気の早期発見のための検診を数多く手掛ける。女性のヘルスリテラシー向上に向け、インスタグラムやポッドキャスト番組「女性と更年期の話」で、診察室での患者とのリアルなやりとりに基づいたストーリーを伝えている。
日本産科婦人科学会専門医、女性医学学会認定医、マンモグラフィー読影認定医、乳腺超音波認定医、オーソモレキュラー認定医。漢方茶マイスター。
(2025/05/28 05:00)
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