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「職場の健康」に関する最新研究とスタートアップ企業の動向

アスタミューゼ株式会社
アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、「職場の健康」に関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。



「職場の健康」が企業に与える影響

近年、職場における従業員の健康管理が注目されています。従業員の健康増進は、労働意欲の向上や優秀な人材の定着を促し、企業の業績や価値向上に結びつくと考えられています。このため、経済産業省では「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」を「健康経営」と定義(注1)し、優れた企業を「健康経営銘柄」として認定しています。

注1:経済産業省「健康経営」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_keiei.html

健康経営銘柄の選定では、企業の健康保持・増進施策に関する教育内容や財務状況、情報開示の程度などが評価されます。

一方、アメリカでは、上場企業に対し、従業員の健康・安全・well-beingに関する情報を開示する法案「Workforce Investment Disclosure Act」が進行中です。この法案では、怪我や病気の発生数、福利厚生の支出金額などの情報開示が求められています。また、EUでは、2023年に発効したCSRD(サステナビリティ報告指令)により、自社従業員に関する情報の公開が要求されています。具体的には、事故・疫病の発生件数や休暇の取得割合などが開示されます。

世界的に、従業員の健康管理に関する情報開示が拡大する動きが見られます。このレポートでは、アスタミューゼが保有する世界最大級のデータベースを活用し、職場の健康に関する研究プロジェクトとスタートアップ企業の動向について解説します。

グラント動向と研究プロジェクト

科学研究資金であるグラントには、まだ論文発表に至っていない、新たなアプローチや研究に対する資金が含まれます。その動向を見てみましょう。

図1は、過去10年間における職場の健康に関する研究プロジェクトの件数を上位5カ国で比較したものです。中国のデータは不十分なため、除外されています。

日本とアメリカが研究件数でトップを争っていましたが、近年ではイギリスも増加傾向にあり、競争が激しくなっています。

図2は、各国の研究プロジェクトへの配賦額の推移です。これは、プロジェクト期間中に均等に割り振られた金額を年度ごとに集計したものです。この観点では、アメリカが最も多くの資金を配分しています。

アメリカでは、1990年代にロバート・ローゼン博士が提唱したヘルシー・カンパニー思想が先駆的で、従業員の健康が会社の収益性に直結することを強調しました。この理念が日本の健康経営にも影響を与えました。アメリカでは長らく、従業員の健康管理に投資が行われ、会社の業績向上に繋がると意識されてきました。

EUでは、2020年に配賦額が急増しました。これは、職場の環境要因による従業員の健康リスクを評価するプロジェクトが大きな支援を受けたためです。

高額の研究プロジェクトでは、職場環境改善のために最新技術を導入する取り組みが多く見られます。以下にいくつか例を挙げます。

プロジェクト例:
Exposome project for health and occupational research
機関/企業: Aarhus Universitet 他

グラント名/国: CORDIS/EU

研究期間: 2020-2024年

資金調達額: 約1400万米ドル

概要: 職場環境における、音や光、化学物質など有害な要因に対する労働者の健康リスクについてウェアラブルセンサ等を用いて測定し、統計的手法を用いた評価を行うプロジェクト。





DIGIT
機関/企業: University of Exeter 他

グラント名/国: EPSRC /英国

研究期間: 2021-2026年

資金調達額: 約510万米ドル

概要: 人工知能やIoTなどのデジタル技術の導入に際して従業員のストレスを測定し、その影響を考慮したシステム設計を行うプロジェクト。






Smart, Personalized and Adaptive ICT Solutions for Active, Healthy and Productive Ageing with enhanced Workability
機関/企業: Centre for Research & Technology Hellas 他

グラント名/国: CORDIS/EU

研究期間: 2020-2024年

資金調達額: 約400万米ドル

概要: 高齢労働者向けの職場環境改善のため、老化や精神状態の変化を考慮に入れたタスク管理支援のICTツール開発プロジェクト。




スタートアップ企業のトレンド

スタートアップ企業は、先進的なテクノロジーを駆使し、社会や既存企業に大きな影響を与えることが期待され、その資金調達額は社会の期待を示すものと言えます。

図3は、2012年から2021年までの職場の健康に関連するスタートアップ企業の設立数と資金調達額の推移を示しています。

この期間、設立企業数と資金調達額は増加傾向にあり、特に2021年に急増しました。この背景には、アメリカのスタートアップ企業が大規模な資金調達を果たしたことが挙げられます。以下は、2021年に資金調達額が著しく増加したアメリカのスタートアップ企業の一部です。

スタートアップ企業例:
Lyra Health
https://www.lyrahealth.com/

創業年:2015年

累計資金調達額:約9億1,000万米ドル

2021年の資金調達額:約3億8,700万米ドル

事業内容:従業員とメンタルヘルスの専門家とのコンタクトを促進するプラットフォームを提供





Gympass
https://gympass.com/

創業年:2012年

累計資金調達額:約6億米ドル

2021年の資金調達額:約2億2,000万米ドル

事業内容:福利厚生プログラムとして企業に提供する、ジムやパーソナルトレーナーの利用、栄養バランス管理、睡眠の質のモニタリングを含む身体的健康の増進支援アプリ





BetterUp
https://www.betterup.com/

創業年:2013年

累計資金調達額:約5億7,000万米ドル

2021年の資金調達額:約4億2,500万米ドル

事業内容:AIを活用し、様々なコンサルタントや心理学者をマッチングさせ、従業員の悩み解決とエンゲージメント向上を支援するプラットフォーム





アメリカの非営利団体Kaiser Family Foundationの調査「2021 Employer Health Benefits Survey」(注2)によれば、アメリカの大規模企業の83%は減量、禁煙、ライフスタイルや行動の指導をウェルネスプログラムとして提供しています。そのうち68%がコロナ禍を契機に見直しを行い、オンラインのカウンセリングサービスを提供する企業は58%、在宅勤務する従業員向けにプログラムを修正した企業は34%です。

注2:Kaiser Family Foundation「2021 Employer Health Benefits Survey」
https://www.kff.org/mental-health/report/2021-employer-health-benefits-survey/

アメリカの多くの企業は、新型コロナウイルスの感染拡大によって生じた働き方の変化に対応し、従業員の健康課題への対策を迫られました。そのため、オンラインでの従業員の健康管理を支援するスタートアップ企業が注目され、資金調達額の増加につながったと考えられます。

まとめ

科学研究のグラントでは、職場環境の向上を目指す最新技術を用いた研究が莫大な資金を獲得していました。同時に、スタートアップ企業では、従業員の健康管理・ケアをサポートするアプリやプラットフォームを提供する企業、特にメンタルヘルスに焦点を当てた企業が多額の資金調達に成功しています。

従業員のメンタルヘルス問題は、企業経営において生産性低下だけでなく、離職率上昇や再雇用コスト増加などを引き起こし、業務に深刻な影響を及ぼす可能性があります。そのため、この分野への投資が急速に増えていると考えられます。

経済産業省の報告によれば、健康経営銘柄に選定された企業は、過去10年間でTOPIXを上回るパフォーマンスを示しています。従業員の安定した労働環境が、企業価値向上に繋がることが認識され、職場の健康増進が企業にとって重要な要素であると広く理解されています。

今後も、職場の健康向上に関する最新技術の活用がますます進展し、企業の経営において重要な位置を占めることが予測されます。

著者:アスタミューゼ株式会社 神田知樹 修士(工学)/ 源 泰拓 博士(理学)

さらなる分析は……

アスタミューゼでは「職場の健康」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。

本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。

それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。

また、各領域/テーマ単位で、技術単位や課題/価値単位の分析だけではなく、企業レベルでのプレイヤー分析、さらに具体的かつ現場で活用しやすいアウトプットとしてイノベータとしてのキーパーソン/Key Opinion Leader(KOL)をグローバルで分析・探索することも可能です。ご興味、関心を持っていただいたかたは、お問い合わせ下さい。
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