英・University of NottinghamのBarbara Iyen氏らは、過活動膀胱(OAB)治療薬として使用される複数の抗コリン薬の使用と認知症リスクとの関連を検討したネステッド症例対照研究の結果をBMJ Med2024; 3: e000799)に報告。「抗コリン薬の中ではオキシブチニン、ソリフェナシン、トルテロジンが認知症リスクとの関連が強かった」と述べている(関連記事:「抗コリン薬で認知機能低下の可能性」)。

個々の抗コリン薬と認知症リスクとの関連は未検討

 抗コリン薬の長期使用と認知機能低下および認知症との関連については過去に幾つかの報告がある(JAMA Intern Med 2015; 175: 401-407Am J Geriatr Psychiatry 2016; 24: 485-495JAMA Intern Med 2019; 179: 1084-1093)が、個々の薬剤別のリスク評価はなされていない。

 Iyen氏らは今回、英国のプライマリケアの電子医療記録であるClinical Practice Research Datalink(CPRD)GOLDデータベースを用いて、認知症診断例(症例群)と非診断例(対照群)の診断前3~16年のOAB治療薬使用量と認知症診断との関連を検討した。CPRD GOLDは英国人口の約4.5%をカバーしており、年齢、性、民族群の点で英国の一般人口を代表するデータベースである。

 同氏らは2006~16年に認知症と診断された55歳以上の17万742例と背景因子をマッチングさせた対照群80万4,385例を抽出した。年齢中央値は83歳(四分位範囲77~87歳)、女性が62.6%だった。薬剤の累積使用量は標準化1日量の合計〔total(cumulative) standardized daily doses;TSDD〕として算出した

古い抗コリン薬で用量依存的なリスク上昇

 症例群のうち1万5,418例(9.0%)、対照群のうち6万3,369例(7.9%)がOABに対し抗コリン薬を処方されていた。最も多かったのはオキシブチニン(症例群4.7%、対照群4.1%)で、トルテロジン(同4.1%、3.5%)、ソリフェナシン(同2.8%、2.4%)が続いた。

 抗コリン薬非使用例を参照とした場合、使用例の認知症発症の調整後オッズ比(aOR)は、1.18(95%CI 1.16~1.20)だった。

 薬剤別に見ると、オキシブチニンはTSDDが1~90でaOR 1.04(95%CI 1.01~1.07)、TSDDが1,095超ではaOR 1.28(同1.15~1.43)、ソリフェナシンはそれぞれaOR 1.02(同0.97~1.08)、aOR 1.29(同1.19~1.39)、トルテロジンはaOR 1.05(同1.01~1.09)、aOR 1.25(同1.17~1.34)と、用量依存的に認知症リスクが上昇することが判明した。しかし、他の抗コリン薬(darifenacin、フェソテロジン、フラボキサート、プロピベリン、trospium)の使用と認知症リスクには有意な関連は認められなかった。


 一方、選択的β3アドレナリン受容体作動薬であるミラベグロンについては、TSDD(1~90、91~365、366~1,095、1,095超)により認知症のaORに大きな変動が見られ、一貫した関連性は示されなかった

リスクを考慮した薬剤選択が必要

 以上の結果を踏まえ、Iyen氏らは「OABに対しミラベグロンが最初に処方されることはほとんどなく、同薬使用例の多くは、その前に処方されていた抗コリン薬の影響を受けている可能性がある」と考察。

 「英国立医療技術評価機構(NICE)は、OAB治療薬としての抗コリン薬の効果と副作用はいずれの薬剤も同程度とし、廉価な薬(オキシブチニンやトルテロジン)の使用を推奨している。しかし、今回の知見からは、長期的な認知症リスクの低い薬剤の選択を考慮する必要があると考えられる」と結論している。

(医学ライター・木本 治)