壊疽性膿皮症(PG)は、下肢に好発し痛みを伴う単発性または多発性の潰瘍を特徴とする進行性の疾患である。主な合併症は、関節リウマチ潰瘍性大腸炎クローン病など。非特異的な組織所見であることから鑑別が困難で、しばしば診断が遅れがちになる。TNFα阻害薬アダリムマブは、PG治療薬として世界に先駆けて日本で承認されたが、リアルワールドでのデータは不足している。福島県立医科大学皮膚科学講座教授の山本俊幸氏らは、日本人PG患者における同薬の安全性と有効性を評価する多施設共同非盲検市販後観察研究を実施。実臨床での有効性が示されたとの中間解析結果をJ Dermatol2024年11月13日オンライン版)に発表した。

感染症の発現率、PGAスケールなどを評価

 山本氏らは、2020年11月27日~23年1月31日にPGと診断されアダリムマブを処方された患者を登録。同薬による前治療歴がある者のうちPGに対する処方例は除外した。

 添付文書に従い全例に初回はアダリムマブ160mg、2回目(初回投与から2週間後)は80mg、3回目(初回投与から4週間後)は40mg、その後は40mgを週1回皮下投与した。52週間追跡し、52週目以前に同薬を中止した患者は最終投与後70日間追跡した。

 安全性の主要評価項目は追跡期間中に副作用として報告された全感染症の発現率とした。副次評価項目は、追跡期間中に副作用として報告された重篤な感染症の発現率および感染症以外の副作用の発現率とした。

 有効性の評価項目は、12、26、52週時または中止時におけるPhysician Global Assessment (PGA)スケール(0~6点、高スコアほど重症)、Investigator Inflammation Assessment(IIA)スケール(0~4点、高スコアほど重症)、疼痛Verbal Rating Scale(VRS)スコア(0~3点、高スコアほど痛みが強い)とした。

主な合併症は潰瘍性大腸炎糖尿病高血圧

 54施設で67例を登録した。そのうち48例から症例報告書を収集し、中間解析を行った。データカットオフ日(2022年12月31日)までにデータが確定しなかった11例を除外し、37例(平均年齢62.9±16.4歳、男性21例、平均体重60.96±12.92kg、合併症有病率86.5%)を安全性解析の、評価不能例5例を除外した32例を有効性解析の対象とした。

 安全性の解析集団で最も多かった合併症は潰瘍性大腸炎(21.6%)で、次いで糖尿病(18.9%)、高血圧(10.8%)の順だった。TNFα阻害薬はクローン病(インフリキシマブ2例)および潰瘍性大腸炎(インフリキシマブ、アダリムマブ各1例)に対し使用されていた。また、PGの罹病期間は1〜3年(平均罹病期間2.7±5.0年)が81.1%を占め、89.2%が1〜5個の病変を有していた(平均5.4±16.2個)。罹患部位は下肢(83.8%)および体幹(10.8%)に多く見られた。中等度~極めて重度の紅斑が75.0%に認められ、IIAスコアは2~4点だった。

 有効性の解析集団では、中等度~重度の疼痛が60.7%認められた。ベースライン時の疼痛VRSスコアは2~3点(平均1.82±0.77点)だった。

 アダリムマブの平均投与期間は185.5±119.1日〔中央値183.0日(範囲1~365日)〕だった。データカットオフ日までにアダリムマブ投与を中止した割合は、安全性解析集団で45.9%、有効性解析集団で40.6%だった。中止理由として、有害事象の発生、症状の改善、効果の低さが挙げられた。

 安全性解析集団では、アダリムマブ投与前に全例がPGの薬物療法を受けていた。アダリムマブ投与中には89.2%が他の薬物療法を併用し、10.8%が手術(2.7%)、陰圧創傷治療(2.7%)を含む非薬物治療を受けていた。

4割で疼痛消失も、重篤な有害事象が発生

 安全性の主要評価項目とした感染症の発現率は13.5%で〔肺炎結核敗血症、尿路感染症肺炎+サイトメガロウイルス腸炎(CMV)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)各1例〕、10.8%が重篤な副作用として報告された(結核敗血症、尿路感染症肺炎+CMV腸炎各1例)。感染症以外の重篤な副作用である脳梗塞は、肺炎およびCMV腸炎を呈した患者で報告された。全有害事象および副作用の発現率は、それぞれ40.5%、18.9%だった。期間中に2例が死亡し、1例ではアダリムマブ投与との因果関係が否定できなかった。

 有効性については、全病変のPGAスコア0/1を達成した患者割合が、12週時で42.9%(95%CI 24.5~62.8%)、26週時で36.8%(同16.3~61.6%)、52週時で50.0%(同15.7~84.3%)、治療中止時で33.3%(同7.5~70.1%)だった。疼痛VRSスコアの平均値はベースライン時で1.82±0.77点、26週時で0.88±0.86点、52週時で0.57±0.53点、治療中止時1.00±1.00点。疼痛VRSスコア0を達成した患者割合は、26週時で35.3%(同14.2~61.7%)、52週時で42.9%(同9.9~81.6%)、治療中止時で44.4%(同13.7~78.8%)だった。

 以上を踏まえ、山本氏は「PGに対するアダリムマブの忍容性はおおむね良好であり、中間解析時点で安全性に関する新たな懸念は認められなかった」と結論。「さらなる追跡調査により、既存の治療に抵抗性のPG患者に対するアダリムマブの長期的な安全性と有効性について、より詳細な知見が得られるだろう」と展望している。

編集部・栗原裕美