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リジェネフロ、iPS創薬により発見した多発性嚢胞腎治療薬候補の前期第二相臨床試験を開始

リジェネフロ株式会社
<ポイント> ● リジェネフロはタミバロテンを開発品とした前期第二相臨床試験を昨年12月より開始した ● 本試験は2段階に分かれており、第1段階の被験者リクルートは終了した ●第1段階で安全性に問題がなければ、第2段階の被験者リクルートを2024年4月中旬以降から開始予定


1)要旨
 京大発スタートアップ企業のリジェネフロ株式会社(本社:京都市左京区、代表取締役:森中紹文、以下「リジェネフロ」)は、京都大学iPS細胞研究所(本部:京都市左京区、所長: 高橋淳、以下「CiRA」)の研究成果をもとに、RAR作動薬であるタミバロテンを常染色体顕性(優性)多発性嚢胞腎(ADPKD) [注1]治療の開発品として選定し、ADPKD患者さんを対象とした前期第二相臨床試験を開始しましたのでお知らせします。本試験での被験者は安全性確保の観点から、段階的な募集を計画しており、現在は募集をしていません。安全性・忍容性に問題ないことが確認された場合、2024年4月中旬以降から被験者募集を行う予定です。
 多発性嚢胞腎は、腎臓に水が溜まった袋(嚢胞)が多数形成され、腎臓の機能が低下する難病です。中でも、ADPKDでは、主に腎集合管[注2]から嚢胞が形成されます。前伸一特定拠点講師(CiRA増殖分化機構研究部門;リジェネフロ科学アドバイザー)および長船健二教授(CiRA同部門;リジェネフロ取締役最高科学顧問)らの研究グループは、iPS細胞から集合管オルガノイド[注3]を作製し、難病である多発性嚢胞腎の病態モデルを作製することに成功しました。また、このモデルを活用して、嚢胞形成を強力に抑制する薬剤の候補として、レチノイン酸受容体(RAR)作動薬を同定することに成功し、その治療効果を複数のADPKDマウスモデルで確認しました(https://www.regenephro.co.jp/news/2023-12-01/)。
 リジェネフロはRAR作動薬の中から、本邦で既に承認されているタミバロテンをADPKD治療の開発品として選定し、ADPKD患者さんを対象とした前期第二相臨床試験を実施しており、既に小数例の患者さんへの投与が行われています。現時点では被験者リクルートは一旦中断していますが、2024年4月中旬以降から国内複数施設において被験者リクルートを再開する予定です。タミバロテンは、再発・難治性の急性前骨髄球性白血病(APL)の治療薬として承認されており、アムノレイク錠2mgとして販売されています。タミバロテンは既存薬と異なり多量の飲水が必要ない等、ADPKD治療におけるQuality of Lifeを改善することが期待されます。

2) 研究・開発の背景
 ADPKDは、腎臓内に多数の嚢胞を形成する進行性の難病で、人工透析や腎移植を必要とする末期腎不全に至ります。1,000-4,000人に1人が罹患し、世界の腎不全患者数の5~10%を占めています。ADPKD患者さんの腎嚢胞は、糸球体や腎尿細管上皮より発生することもありますが、主に集合管から発生します。集合管で特異的に発現するアルギニン・バソプレシン2型受容体(AVPR2)の拮抗阻害剤であるトルバプタンは、ADPKDの治療薬として唯一承認されていますが、疾患の進行を止めることはできません。またトルバプタンは、腎集合管でのバソプレシンによる水再吸収を阻害することで水利尿作用を示すため、1日に多量の飲水が必要です。


 トルバプタンの上市以降、世界各国の製薬企業が新規ADPKD治療薬の開発を行ってきましたが、日本、米国、欧州のいずれにおいても承認された薬剤は未だありません。トルバプタンと同じ作用メカニズムの開発品や、作用メカニズムが異なる数多くの開発品の臨床試験が実施されましたが、現在までのところヒトにおける有効性ならびに安全性が検証できた薬剤はありませんでした。これらの薬剤のADPKDにおける開発は既に中止されているものがほとんどであり、新たな治療の選択肢が強く望まれています。
 前伸一特定拠点講師(CiRA増殖分化機構研究部門;リジェネフロ科学アドバイザー)および長船健二教授(CiRA同部門;リジェネフロ取締役最高科学顧問)らの研究グループは、iPS細胞から腎集合管オルガノイドを作製し、難病である多発性嚢胞腎の病態モデルを作製することに成功しました。また、このモデルを活用して、嚢胞形成を強力に抑制する薬剤の候補として、レチノイン酸受容体(RAR)作動薬を同定しました。
 リジェネフロは、RAR作動薬の中から、再発・難治性の急性前骨髄球性白血病(APL)の治療薬として日本において既に承認されているタミバロテンをADPKD治療薬の候補として選択しました。タミバロテンは長期臨床試験を実施するために必要な非臨床毒性試験を実施済みであること、また、APL以外にも多種多様な適応症(非小細胞肺癌、骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病、膵臓がん、ループス腎炎、クローン病、アルツハイマー病等)の臨床試験を実施中もしくは完了している等、ヒトに対する投与経験が豊富であり、ヒトにおける安全性プロファイルは確立しているものと考えられました。
 再発・難治性のAPL治療においては、高用量のタミバロテンを短期間集中的に投与することにより、分化症候群などの重大な副作用が報告されています。一方、アルツハイマー型認知症患者を対象とした医師主導臨床試験においては、今回の臨床試験と同じくAPL治療よりも低用量のタミバロテン4 mgを1日1回24週間経口投与していますが、死亡例ならびにタミバロテンとの関連性が否定できない重篤な有害事象は報告されておらず、タミバロテンの忍容性ならびに安全性に問題は認められませんでした。これらのことから、追加の非臨床毒性試験や第一相臨床試験を新たに実施することなく、ADPKD患者を対象とした臨床試験を実施することは妥当であると考え、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の対面助言を経て試験計画を最終化し、2023年12月より前期第二相臨床試験を開始しました。
 ADPKD患者さんへのタミバロテン投与は今回の臨床試験が最初であることから、臨床試験計画書には、段階的な被験者のリクルート、定期的に効果安全性評価委員会による第三者的な安全性のモニタリングを実施、治験薬の減量・中止基準を厳格に設定、治験全体の中止基準の設置など、種々の安全対策を設定しています。
 前期第二相臨床試験はPK PhaseとRandomization Phaseに分かれており、PK Phaseの被験者リクルートはすでに終了し、本臨床試験の被験者リクルートは一旦中断しています。PK Phaseにおける投与後8週間までの安全性・忍容性に問題ないことを効果安全性評価委員会が確認後、Randomization Phaseの被験者リクルートを開始する予定です。被験者リクルートの再開は2024年4月中旬以降の予定です。
 本臨床試験においてタミバロテンの有効性ならびに安全性が確認されれば、タミバロテンの作用メカニズムはトルバプタンとは異なりますので、多量の飲水が必要ない等、ADPKD治療におけるQuality of Lifeを改善することが期待されます。

3) 実施中の臨床試験概略
 治験依頼者:リジェネフロ株式会社

 治験薬名:タミバロテン(治験薬コード:RN-014)

 治験課題名:常染色体優性多発性囊胞腎に対するタミバロテンの前期第II相試験

 試験デザイン:プラセボ対照、単盲検試験

 目標症例数:70名(PK phaseおよびRandomization phaseあわせて)

 治験薬の用法・用量:タミバロテン(4 mg)又はプラセボを1日1回、52週間経口投与

 主な有効性の評価項目:総腎容積、総肝容積、腎機能(eGFR)

 主な選択基準:
・国際基準によりADPKDと診断された患者
・Mayoクラス分類[注4]:Class 1C、1D、1E
・年齢26歳以上55歳以下で、推算糸球体濾過量(eGFR)値が60 mL/min/1.73 平方メートル 以上
・トルバプタンによる治療が困難と判断された患者もしくはトルバプタンによる治療を希望しない患者
・Body Mass Index(BMI)30以下
・収縮期血圧が140 mmHg以下かつ拡張期血圧が90 mmHg以下の患者

 治験実施施設:順天堂大学など、国内複数施設

 被験者リクルート再開予定時期:2024年4月中旬以降



<治験情報公開>
・jRCT (Japan Registry of Clinical Trials:臨床研究等提出・公開システム)
  臨床研究実施計画番号:jRCT2011230055
  https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT2011230055
・ClinicalTrials.gov
  近日中に掲載予定

4)まとめと展望
 リジェネフロは、ADPKD患者さんを対象とした前期第二相臨床試験を2023年12月から実施しています。本臨床試験においてタミバロテンの有効性ならびに安全性が確認されれば、パートナーとなる製薬企業と提携を結び、グローバル臨床試験に進む予定です。タミバロテンが日本およびグローバルでADPKD治療薬として上市されれば、ADPKD治療におけるQuality of Lifeを改善することが期待されます。
 今回の臨床試験はiPS細胞から作製した病態モデルから創薬するiPS創薬の新しい事例となります。リジェネフロは今後もCiRAやパートナー企業と緊密に連携しながら、ADPKDをはじめとする腎臓、肝臓、膵臓領域の複数の難病に対するiPS創薬を推進してまいります。

5)用語説明
[注1] 常染色体顕性(優性)多発性嚢胞腎(ADPKD)
両側の腎臓に多数の嚢胞が次第に発生・増大して、徐々に腎機能障害が進行する最も頻度の高い遺伝性嚢胞性腎疾患。腎臓以外にも、肝臓や膵臓などに嚢胞が生じることもある。全身の血管にも異常があり、高血圧、脳動脈瘤、心臓の弁異常を伴う頻度が高いことが分かっている。嚢胞の増大を抑制するトルバプタンがADPKD治療薬として唯一承認されているが、根治的な治療法は現在のところない。
[注2] 集合管
ネフロンは腎臓の中で、集合管と呼ばれる構造と連結している。集合管では尿細管から流れてきた尿から水分の再吸収が行われ、その後、尿が尿管から膀胱へと排泄される。ネフロンは後腎ネフロン前駆細胞(NP)から分化し、集合管、尿管などの下部尿路は尿管芽(UB)から分化する。
[注3] オルガノイド
3次元的に試験管内で作られた小さな臓器のこと。
[注4] Mayo Class分類
Mayoクラス分類は2015年の報告以降,世界各国で使われるようになったADPKDのリスク分類であり、年齢とHtTKV(身長で補正したTKV)からClass 1A~1Eまで5群に分ける分類方法である。このクラス分類によってその後のeGFR低下速度が有意に異なり、各グループでは何年後に末期腎不全に至るか予測することが可能である。Class 1C、1D、1Eは急速進行群とされている。
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