電解水素水を透析治療に応用。日本トリムは透析患者の方々のWell being実現をサポートしたい
11月14日は「世界糖尿病デー」です。
糖尿病は世界の成人のおよそ10人に1人、5億3,700万人が抱える病気で、年間670万人以上が糖尿病の引き起こす合併症などが原因で死亡しています。
糖尿病が進行し腎不全に陥ると、全身の血液を体の外に出し、体内に溜まった老廃物や毒素等をろ過して、きれいな血液を体に戻す「人工透析」が必要な状態になります。
日本透析医学会の発表では、日本国内の透析患者数は年々増加し、2021年末の施設調査結果による透析患者数は 349,700人に達し、透析患者の死亡率は5年で39.2%、10年で64.1%(2015年末データ)。その主な死因は心脳血管合併症とされています。
株式会社日本トリムは “快適で健康なヒューマンライフの創造に貢献する”ことを目指し、透析治療を受けられる方々の身体的負担を少しでも軽減したいと、2006年より電解水素水を透析治療に活用する「電解水透析®」の研究と普及に取り組んでいます。
日本トリムが初めて電解水素水を透析治療に応用した「電解水透析®」の開発ストーリーを、代表取締役社長 田原周夫よりご紹介いたします。
<アウトライン>
•「世界糖尿病デー」について
•糖尿病とリスク
•次世代の新規治療法として注目される「電解水透析®」とは
•「電解水透析®」の仕組み
•「電解水透析®」は海外の教育機関との共同研究から始まった
•一般社団法人 電解水透析研究会の設立
•懐疑的な声も多くあったが研究を続けていった
•電解水透析®の将来性
•毎日飲む「水」で無理なく健康に生きる未来を目指す
「世界糖尿病デー」について
「世界糖尿病デー」(11月14日)は、世界に広がる糖尿病の脅威に対応するために1991年にIDF(国際糖尿病連合)とWHO(世界保健機関)が制定し、2006年12月20日に国連により公式に認定されました。11月14日は、インスリンを発見したカナダのバンティング博士の誕生日であることから、博士に敬意を表し、この日を世界糖尿病デーとして顕彰しています。
現在、世界糖尿病デーは世界160カ国から10億人以上が参加する世界でも有数な疾患啓発の日となっており、糖尿病の予防や治療継続の重要性について市民に周知する重要な機会となっています。
糖尿病とリスク
糖尿病は、膵臓から出るホルモン「インスリン」が十分に働かないために、血液中を流れるブドウ糖が増えてしまう病気です。血糖の濃度(血糖値)が何年間も高いままで放置されると、血管の内側の壁を傷つける活性酸素が発生し、悪玉コレステロールや白血球が内部に入り込むことで血管が傷ついて動脈硬化を引き起こします。
このように血管が傷つき硬化することで、将来的には心臓病や、失明、腎不全、足の切断といった、より重い病気(糖尿病の慢性合併症)に繋がるとされます。
次世代の新規治療法として注目される「電解水透析®」とは
糖尿病が進行し腎不全に陥ると、全身の血液を体の外に出し、体内に溜まった老廃物や毒素等をろ過して、きれいな血液を体に戻す「人工透析」が必要な状態になります。
日本では世界トップクラスの透析治療が行われていますが、それでも透析患者の平均余命は一般人の約半分と言われており、その死亡原因は心脳血管死(心不全、脳血管障害、心筋梗塞)が31.5%(※)と最多です。その原因として、治療中に発生する酸化ストレスや炎症が関与し、動脈硬化を促進していると考えられています。
日本トリムでは、血液透析一回につき約120リットルの水を使用する点に着目し、抗酸化性がある水素(H2)の作用により、透析治療中に発生する酸化ストレスや炎症を抑制し、透析患者の方々のQOL(生活の質)向上に貢献することを目指しているのが「電解水透析®」です。
(※)日本透析医学会2021末統計調査「わが国の慢性透析療法の現況」
「電解水透析®」の仕組み
一般的な血液透析では、尿毒素に汚染された血液を体外に導き、人工腎臓とも呼ばれるダイアライザーにその一定量の血液を送り、「老廃物除去」「電解質補正」「過剰水分除去」を行い、血液をきれいにして体内に戻す方法がとられています。
透析液は透析液原液または粉末を透析用水で希釈して作られます。従来の透析と電解水透析®の違いは、後者では「電解RO水」を希釈水として使用している点にあります。
この電解RO水は、水素を含む電解陰極水をRO処理(※)して作られるものです。これにより、電解水透析®システムで生成される透析用水や透析液には、一定の水素が溶存するユニークな特性が付加されます。
(※)逆浸透膜浄水処理:水に含まれる様々な不純物を除去する処理
日本トリムではこの電解水透析®システムを2011年より製造販売し、2020年には、医療機関からの製品導入の多くの要望に応え、導入を加速するため、標準化タイプの「電解水透析多人数用装置」を発売しております。現在、日本では32施設(2023年4月11日現在)の透析施設、計970床で導入されています。
「電解水透析®」は海外の教育機関との共同研究から始まった
1995年1月、日本トリムの創業者で現会長兼CEOである森澤紳勝が、共同研究の協議のため台北市にある國立臺灣大學(以下:台湾大学)を訪問した際、そこで電解水素水に活性酸素を抑制する抗酸化性があることが確認されました。
このことから、大量の水を使用し、酸化ストレス、炎症が問題である血液透析に、抗酸化作用のある電解水素水が応用できるのではないかという仮説から、台湾大学での共同研究がスタートしました。
その成果として2003年に、腎臓分野で世界でも著名な学術誌「Kidney International」に論文を発表、そのエビデンスをベースに国内での展開をスタートしたいと考え、医療施設へアプローチしましたが、日本でのデータではないとして受け入れられませんでした。
そんな折に、現在も電解水透析®の研究を牽引いただいている中山昌明先生(現在、聖路加国際病院 腎臓内科 部長・腎センター センター長)と出会い、2006年から東北大学との共同研究がスタートしました。安全性試験から開始し、改めていちからのスタートでした。
一般社団法人 電解水透析研究会の設立
前述の通り、2005年から日本トリムは、当時東北大学大学院医学系研究科におられた中山昌明先生と共同研究の準備を始め、2006年から電解水素水の血液透析への応用に関する基礎実験を始めました。
はじめに血液透析療法へ電解水素水を使えるように臨床研究用の電解水透析システムの試験機を作製し(下画像)、透析液を電解RO水(電解水素水をRO膜処理した水)で調製すると酸化性の低い透析液ができることを発見、2007年に「Hemodialysis International」誌に論文が掲載されました。
電解水透析システムの臨床研究用試験機(第1号機)白四角で囲った部分が電解装置
さらに、東北大学の倫理審査委員会の承認を得て、まず8名の透析患者へ1か月間の安全性試験を行いました。結果として、高血圧の抑制と酸化ストレス指標の抑制が観察され、安全性と有用性を確認できました(掲載誌「Nephron Clinical Practice」)。
2008年には、中山昌明先生の呼びかけで、日鋼記念病院 伊丹儀友先生(当時)、東葛クリニック 中澤了一先生(当時)も合流し、電解水素水の血液透析への応用の科学的・医学的妥当性を評価することを目的とした電解水透析研究会を設立しました。
さらに2010年には、3つの透析施設で6か月間(中期)の電解水透析を行い、臨床的な安全性や有用性がさらに確認され(掲載誌「Nephrology Dialysis Transplantation」)、設立目的に広く普及させることを追加し、一般社団法人化しました。
電解水透析研究会 発表風景(2013年)
電解水透析研究会の会場風景(2013年)
懐疑的な声も多くあったが研究を続けていった
研究を始めた当初は、業務用の器械を改造した外付けタイプで、施設ごとにカスタマイズし研究に応用しました。
当初は、日本透析学会などに出展しても「水を変えるだけで本当に効果が期待できるのか?」という懐疑的な声も多くありました。
そのような中でも、日本トリムは東北大学をはじめとした研究機関との産学共同研究を推進し続け、エビデンスを重ねるにつれ、電解水素水を透析治療へ応用することに対する認知や期待も大きくなっていったのです。
2010年に電解水透析システム「TRIM HD-24D」を発売、翌2011年には、ROシステムと一体化した「EW-HDシステム」を発売、翌2012年には「電解水透析®」の商標を取得しました。
また、固体高分子膜を使用した現在の第3世代機の開発を開始し、2016年に発売しました。
電解水透析®の揺籃期には、制限のある機械室の大きさに収めることや、微生物学的な理由で水素濃度が安定しないなどの課題に直面しましたが、技術面だけでなく配管の構造も含めて工夫を重ね、ひとつひとつクリアしながら現在にいたっています。
電解水透析®の将来性
株式会社日本トリム 代表取締役社長 田原周夫(のりお)
透析患者の方々は、週に3回、1回に4~5時間の透析治療を受けなければならず、治療後の疲労などにより日常生活でも身体的に大きな負担を負っておられます。
電解水透析®は、これまでの研究により、患者の疲労軽減や血圧の安定、投薬量の減少といった症例が報告され、透析患者の方々の社会復帰やQOLの向上、Well beingの実現に寄与できる可能性があります。
さらに、通常透析と比較して、死亡と心脳血管疾患合併症の発症リスクが約41%低いことが論文発表され、また患者実態調査結果として、粗死亡率が低いとの分析データも日本透析医学会で発表されるなど、予後の改善も期待されています。
医療機関をはじめ電解水透析®に対する注目度は年々高まり、2020年には聖路加国際病院、2022年には徳洲会グループの湘南鎌倉総合病院や東京都内の透析クリニックに導入されるなど、実績も重ねてまいりました。
電解水透析研究会や関連学会から電解水透析®に関するガイドラインが発表され、今後、国内のみならずグローバルな標準治療となる可能性のある次世代の透析療法だと考えています。
毎日飲む「水」で無理なく健康に生きる未来を目指す
日本において、透析患者の原疾患の39.6%が糖尿病性腎症と報告されています。
電解水透析®では、透析治療を受けざるを得なくなった方々のWell beingの実現への貢献を目指していますが、「透析治療を受けたくない」というのは全ての患者様ならびにご家族の願いだと思います。
日本トリムは、自社にて開発、製造販売している家庭用医療機器「電解水素水整水器」の飲用の分野においても、透析治療が必要になる前の健康維持、そのほかあらゆる疾病の予防に貢献していきたいと考え、国内外の大学や研究機関との共同研究を推進し、その成果を数々の論文や学会で発表してまいりました。
中でも、日本糖尿病学会英文誌「Diabetology International」に2021年7月18日に掲載された東北大学との共同研究(※)では、2型糖尿病患者が電解水素水を日常的に飲用することで、副作用もなく、インスリン抵抗性高値に改善効果があるという結果が発表されました。
2型糖尿病は、食事療法や運動療法が推奨されており、必要に応じて投薬治療も行われていますが、インスリン抵抗性を改善することは困難とされています。
そのため「日常的に飲用する水を電解水素水にする」という手軽な生活習慣は、食事療法の一つとして取り入れやすく、今後2型糖尿病の治療戦略に貢献できることが期待されます。
(※)東北大学との共同研究
「2型糖尿病治療に期待 電解水素水飲用でインスリン抵抗性高値を改善」
毎日必ず摂る水で、糖尿病などの疾病の予防や進行の抑制、治療に少しでも効果があれば素晴らしいことだと思います。
まだ研究途上ではありますが、日本トリムはさらに研究を進め、電解水素水の機能を明らかにしていきたいと考えております。
飲む水を、カラダにいい水に変えることは、無理なく継続できる習慣です。
より多くの方に飲んでいただけるよう、今後も普及に努めてまいります。
■参考文献
・世界糖尿病デー実行委員会HP(https://www.wddj.jp/01_howto.htm)
・国立国際医療研究センター 糖尿病情報センターHP(https://dmic.ncgm.go.jp/)
・一般社団法人日本生活習慣病予防協会HP(https://seikatsusyukanbyo.com/guide/diabetes.php)
■ご参考:代表的な電解水透析®に関する掲載論文
Renal Replacement Therapy (2016) 2 23(総説論文)
「抗酸化療法としての水素分子:血液透析への臨床応用と展望」
https://www.nihon-trim.co.jp/news/1554/
Scientific Reports (2018) Jan 10;8(1):254 (5年間の前向き観察調査)
「電解水透析は血液透析患者の死亡・心脳血管合併症発症リスクを41%低減」
https://www.nihon-trim.co.jp/research/1048/
Renal Replacement Therapy(2021)7:37
「電解水透析は透析関連疲労の原因酸化ストレスを低減」
https://rrtjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s41100-021-00353-9
Renal Replacement Therapy (2021) 7:58
「電解水透析で重度の透析関連疲労感をほぼ消失」
https://www.nihon-trim.co.jp/research/3829/
Renal Replacement Therapy (2022) 8:32
「電解水透析により重度疲労感低減作用を確認、且つその作用を高める要因を発見」
https://www.nihon-trim.co.jp/research/4257/
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