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注射や採血に加え、さまざまな機器を使った検査は現代の医療に欠かせない。しかし、患者にとって痛みを伴ったり、不安を生じさせたりするケースも少なくない。特に、親や家族から引き離されて入院している小児患者に対しては、これらの行為が与える影響は大人が想像する以上だろう。
人形を使い小児患者に採血の疑似体験をさせる井上絵未さん=済生会横浜市東部病院提供
そんな小児患者の痛みや不安を和らげる専門職として、全国の小児病院や大学病院などに配置されつつあるのが「チャイルド・ライフ・スペシャリスト」(CLS)=用語説明参照=だ。人形などで採血の医療行為を模して小児患者と遊ぶことで、自分が受けている検査や治療の意味を理解するきっかけをつくったり、悩みや相談に応じる中で心理的発達を支援したりする役割を担っている。
◇入退院繰り返し、信頼関係
済生会横浜市東部病院の開院時から小児病棟に勤務するCLS、井上絵未さんは全国のCLSが集まる「チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会」の会長も務めるベテランだ。病棟担当の医師や看護師、2人の保育士と連携しながら、日々、小児患者の心身のケアに奔走している。
「小児消化器の専門医が在籍しているという病院の性格上、深刻で慢性の症状に悩まされている小児患者が多い。乳幼児期から学童期まで入退院を繰り返し、まるで遠くに住む親戚の家に泊まりに来た時のようにあいさつしてくれる子どももいる」
済生会横浜市東部病院のCLS、井上絵未さん
井上さんたちは、発達状態や病状に応じて一人ひとりの患者に接してきた。子どもの患者に治療や検査の意味を説明して、理解してもらう。「一緒に病気や障害に立ち向かう」。そういう意識を医療者側と患者が共有できる環境を生み出すことを目標に、お互いの信頼関係が築かれてきた、と振り返る。
◇医療現場で欠かせぬ役割
医療者も当初、CLSの存在を重視してこなかった。だが最近、CLSに対する見方が変わってきた。小児看護専門看護師で、開院時にCLS導入を求めていた渡辺輝子看護部長は「幼少期の患者には保育士が対応できるが、学校高学年から思春期の患者に対してどう信頼関係を築いていくのか。病気やその後の人生の悩みなどを打ち明けてもらうなど、心理分野の専門家であるCLSは今の医療現場には欠かせない存在になった」と強調する。
CLS導入を提唱した同病院の渡辺輝子看護部長
同病院では、CLSの仕事は小児科の入院患者だけにとどまらない。小児の外来患者の支援や救急搬送された保護者や家族に付き添ってきた子どもの精神的ケアなどに関しても、CLSが呼び出されることが増えている。
このため、井上さん一人では対応できず、CLSが1人増員された経緯がある。井上さんは「入院病棟だけでなく、外来や救急病棟にも必要になっている。さらに患者の家族としての小児への支援というニーズもあることを理解してもらいたい」と語る。
用語説明 チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)
医療機関内で小児患者に対し、治療や検査などの医療行為を分かりやすく説明したり、診療に伴う心や体のつらさや痛みを軽減させたりすることを目的とした専門職。日本では公的な資格として認められていないが、米国やカナダでは1950年代から普及。日本国内でも米国などに留学して資格を取得したCLS40人以上が大学病院や小児総合病院など30以上の施設で活躍している。(喜多壮太郎・鈴木豊)
(2019/12/22 08:00)
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