治療・予防

命に関わる遺伝性血管性浮腫
~低い認知度、発作への備え重要~

 遺伝性血管性浮腫(HAE)は、腫れやむくみが顔や手足、消化管、喉など体のさまざまな部位に発作として起こる希少疾患だ。咽頭周囲の発作は、死に至るリスクもある。治療法があるが、医療関係者の認知度は低い。専門医はこの病気への啓発を進め、早期診断・発見が大事だと強調する。

急な腹痛がHAEと診断されないことも多い=「HAEライフ」のサイトより

 ◇多くが10代に発症

 HAEは、C1-INHというタンパク質の機能低下や欠損が原因だ。ブラジキニンという物質が血管から液体を漏らし、血管浮腫を生じさせる。日本の患者は5万人に1人とされ、多くが10代に発症する。
 薬師寺慈恵病院(岡山県総社市)の薬師寺泰匡院長は「皮膚や顔がパンパンに腫れ上がる。アレルギーの症状とは異なる。消化管の場合は吐き気嘔吐(おうと)、痛みなどの症状を来す」と話す。

 腹部の症状は急性の腹痛に類似していることから、本来必要ではない手術が行われることもあったという。

 ◇咽頭周囲が最も危険

 最も危険なのは咽頭周囲の浮腫だ。気道が閉塞し、窒息に至るケースもある。咽頭浮腫は20分以内に起きることがあり、病院に救急搬送されても間に合わない。薬師寺院長によると、過去にはHAE患者のうち約30%が窒息で死亡したという。何より予防が重要だ。

咽頭周辺の発作が最も危険だ=「HAEライフ」のサイトより

 薬師寺院長は自覚症状について「声を出しにくく、しゃべりにくくなる。喉に違和感がある」。周囲が患者の変化に気付くことも大事だ。

 HAEを完全に治すことはできず、治療と予防で対応する。発作時には自宅での皮下注射と医療機関での静脈注射、発作の予防には経口薬と自宅での皮下注射がある。

 ◇大事な医師と患者のコミュニケーション

 患者会「HAEJ」代表理事の松山真樹子さんの夫は、33歳でHAEで亡くなった。咽頭浮腫の発作だった。17歳で発症していたが、HAEと診断がつくまで16年かかった。手足の浮腫やひどい腹痛などで受診したが、浮腫はアレルギー、腹痛は急性胃腸炎や腸閉塞などと診断された。その時、1歳だった娘も検査でHAEだと分かった。

 患者会で最も相談を受ける話題は、医師・病院とのコミュニケーションだという。

 「医師に何度説明しても分かってもらえない」

 「うちでは診られないとしか言われない」

 「発作が出ているのに何時間も待つ。『あす来てください』と言われる」

 こんな声から、HAEに対する医療従事者の認知度が低いことがうかがえる。

 医師側の認知度向上はもちろんだが、別のハードルもある。希少疾患、特に遺伝による疾患に対するイメージが悪いことから、「遺伝病なんて二度と言わないで」と会話を拒否されたり、「早くから知っておく必要もない」と思ってしまったりすることだ。家族に検査を受けさせなければ診断がつかず、発作時に対応できない。結果的に、命の危険という最大のリスクを負うことになる。

 ◇病気は個性!

 希少疾患でも実は身近だ。HAE患者が目指す生き方やQOLについて松山さんは「マイナスから普通の人と同じ状態にすること、つまりゼロにすることではない。望む生活を実現し、プラスにすることだ」と言う。

 松山さんの娘は元気で、こう語る。

 「もし私がHAEみたいな珍しい病気を持っていなかったら、何かつまらないかも。だってめちゃくちゃ珍しい病気でしょ? 自分だけ特別って感じがする! 私だけの個性」

 HAEは一生向き合わなければならない病気だ。松山さんは多くの患者が「病気は個性!」が堂々と言える日が早く来ることを願っている。(鈴木豊)

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