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新型コロナウイルスの感染拡大により自宅で過ごす時間が長くなる中で、不安や孤独、ストレスなどから、飲酒開始時間が早まり、相対的な飲酒量の増加やアルコール依存症の再発などの問題が生じている。大船榎本クリニック(神奈川県鎌倉市)の斉藤章佳・精神保健福祉部長(精神保健福祉士・社会福祉士)は「断酒を続けていたのに再び飲酒してしまう『コロナ・スリップ』が問題になっています」と指摘する。
コロナ禍と飲酒
▽ステイホームで飲酒量が増え
嫌なことがあった時、酒を飲むと一時的に気分が良くなり、一瞬でも悩みを忘れられる。だが、そのような対処法を続けるうちに飲酒量が増え、快感などに関わる脳の報酬系が機能不全を起こして飲酒行動がエスカレートする。ついには、自分の意志で飲酒量や飲酒開始時間をコントロールできなくなる。この状態をアルコール依存症と呼ぶが、「不健康なストレス対処行動が習慣化した状態で、誰にでも起こり得ます」と斉藤部長は説明する。
コロナ禍で外出自粛や在宅勤務が進んだことで、それまで飲酒問題がなかった人でも、時間を気にせず飲み始めたり、飲酒機会が多くなったりする。その結果、適量(純アルコール換算で1日20グラム程度=ビールなら中瓶1本)の倍以上を連日飲むようになって、家族が電話で相談してくるケースが増えたという。
▽乗り越える鍵は人とのつながり
既にアルコール依存症の治療を受けている人はどうか。斉藤部長は「最優先で治療を継続してほしいのですが、続ける意志があるのにコロナ禍でその優先度が下がり、再び1杯の酒に手を付けてしまうことがあります」と指摘する。それが通称「コロナ・スリップ」だ。
密の状態で行われる断酒会やAA(アルコホーリクス・アノニマス=匿名で参加する自助グループ)などの活動や通院途中での感染を恐れ、家族が外出自粛を促すことなどが背景にある。すると同じ悩みを抱える仲間とのつながりが絶たれてしまうばかりか、従来は通院などの外出で、一定の距離が保たれていた家族と過ごす時間が長くなり、酒をやめる前のような緊張状態が生じる。それがストレスとなって再び酒を飲んでしまうのだ。
一人暮らしの高齢者も、通院・外出の自粛で孤立する人が増え、孤独感から再びアルコールに手が伸びるケースがあるという。
斉藤部長は、スリップを防ぐ鍵、乗り越える鍵は人とのつながりにあると力説する。自助グループなどで築いた「裏切ってはいけない大切な仲間」との関係だという。「依存症(アディクション)の反対は『コネクション』。スリップを正直に話せて、責められない居場所をつくることが大切です」と助言する。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2021/01/29 05:00)
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