2024/12/06 17:18
キャラクター活用による病院内での心地よい空間づくりの取り組み
研究成果の概要
【研究のポイント】
・患者さんが、スマートフォンで遠隔的に臨床研究に参加できる分散型臨床試験の基盤を患者市民参画で開発しました。
・認知行動療法のアプリを用いて、世界で初めて、乳がん患者さんの再発に対する恐怖感を軽減することに成功しました。
・将来、通院しなくても自分のスマートフォンを使って、場所や時間を選ばず苦痛を和らげる医療を受けることにつながることが期待されます。
【概要】
名古屋市立大学大学院精神・認知・行動医学分野の明智龍男教授、愛知県がんセンター乳腺科の岩田広治部長、国立がん研究センターがん対策研究所の内富庸介研究統括、京都大学大学院健康増進・行動学の古川壽亮教授などの共同研究グループは、患者さんが通院しなくても遠隔的に臨床研究に参加できる分散型臨床試験(注1)という新しい臨床研究の基盤を患者市民参画(Patient and Public Involvement: PPI)(注2)で開発し、乳がん患者さんの再発に対する恐怖感を自身のスマートフォンにダウンロードした心理療法のアプリを用いて軽減することに世界で初めて成功しました。
現在では、多くのがん患者さんが仕事をしながら通院したり、さまざまな心理的苦痛を抱えながら生活しているなか、今回の研究は、自分のスマートフォンのアプリを使うことで通院等の負担を大きく軽減でき、また場所や時間を選ばず苦痛を和らげるための医療を受けることができる可能性を示しています。
本研究は、がん領域の支持療法(注3)の恒常的な多施設共同臨床試験・臨床研究体制の構築を目指す日本がん支持療法研究グループ(J-SUPPORT)(注4)による研究支援と、日本医療研究開発機構(AMED)の革新的がん医療実用化研究事業による支援を受け実施したもので、研究成果は11月3日(日本時間)に国際学術雑誌「ジャーナル・オブ・クリニカル・オンコロジー(Journal of Clinical Oncology)」オンライン版に掲載されます。
● J-SUPPORT 研究の詳細について
乳がん患者の再発不安・恐怖に対するスマートフォン問題解決療法および行動活性化療法の有効性:無作為割付比較試験(J-SUPPORT1703):
https://www.j-support.org/study/completed/individual.html?entry_id=210
【背景】
現在毎年9万人以上の方が乳がんに罹患しており、この数は年々上昇しています。がん医療の進歩により乳がんの治癒率は改善されており、およそ9割以上の方が10年以上の生存が可能となっています。一方では、再発すると完治が難しく、多くの患者さんが再発に対する不安感や恐怖感を経験しており、本症状は日常生活の質を大きく悪化させるもので(Simard S, et al. J Cancer Surviv 2013)、6割を超える乳がん患者さんが再発に対する恐怖を軽減する治療を希望していることがわかっています(Akechi T, et al. Psycho-Oncology 2011)。
再発に対する恐怖を軽減する治療は、薬剤では有効なものがなく、認知行動療法(注5)が期待されていましたが、一般的には、「がんになったんだから仕方がない」「どうしようもない」と考えられ、ケアや治療の対象として扱われることはほとんどなく、専門的な治療を提供できる精神科医や心療内科医、公認心理師など医療者の人員不足や、仕事や子育てなどで忙しい患者さんの負担などの問題もあり、ほとんどの患者さんが適切な治療を受けることなく、我慢せざるを得ない状況でした。
そのため研究チームは、患者さん自身で認知行動療法を実施できるアプリの開発とその有効性を確認するため本研究を実施しました。
【研究方法】
先行研究において、スマートフォンで実施可能な認知行動療法のアプリとして問題解決療法アプリ「解決アプリ」と行動活性化療法アプリ「元気アプリ」(図1)を京都大学、精神・神経医療研究センターと共同で開発し、乳がん患者さんの再発に対する恐怖が和らぐ可能性があることを小規模の臨床試験で示しました(Imai F, et al. Jpn J Clin Oncol 2018)。
本臨床試験においては、参加者の募集を、病院でのポスター掲示、リーフレットの配布や各種メーリングリスト、SNS(フェイスブック)、インターネット検索サイトの広告などを用いて行い、その後の研究参加への同意説明や本人確認もすべてデジタルデバイスを用い遠隔で実施する研究の仕組み(分散型臨床試験)を開発して行いました(図2)。
参加対象は、50歳未満の手術後1年以上再発のない女性の乳がん患者さんとし、通常の治療に加えてこの2つのアプリを使用する群と使用しない群に無作為に割り付け、8週間後に再発に対する恐怖が和らぐかどうかを検討しました(図3)。
また、患者さんに研究計画段階から参加いただく患者市民参画(Patient and Public Involvement: PPI)も実践しました。
図 1 問題解決療法アプリ「解決アプリ」と行動活性化療法アプリ「元気アプリ」
「解決アプリ」では、構造化された方法によって、患者さんの日常生活上の問題を分類し、具体的に達成可能な目標を定めます。そして、解決策をブレインストーミングし、解決策のメリットとデメリットを比較して、最終的に実際にやってみたい解決策を選ぶ方法を習得していきます。
「元気アプリ」では、“行動が変われば気分も変わる”という原理に基づいて、喜びや達成感のある活動をすることの重要性についての学習を行います。そのうえで、やめてしまった楽しい活動や今までやったこともない楽しそうな新しそうな活動を実際にやってみて、その結果を評価するということを繰り返すシンプルな治療法です。
図 2 デジタルデバイスを用いた分散型臨床試験のシステム
【研究結果】
最終的に447人の乳がんの患者さんが研究に参加し、アプリを使用する群223名とアプリを使用しない群224名に割付けられました。研究に参加した方の年齢の中央値は45歳で、約半数の方はフルタイムで就労している方でした(図4)。
本研究の結果、アプリを使用した患者さんは、開始から4週後で再発に対する恐怖が統計学的に有意にさがり、その効果は8週後でもそのままみられました。また8週後と24週後時点における再発恐怖に差はみられなかったことから、その効果は24週後も継続している可能性が示唆されました(図5)。同様の結果が、抑うつと心理的ニード(心理的側面に関するケアの必要性)にもみられました(図6)。一部の参加者に聞き取り調査を行った結果、副作用はみられませんでした。
(2022/11/08 15:12)
2024/12/06 17:18
キャラクター活用による病院内での心地よい空間づくりの取り組み
2024/11/05 16:00
オイシックス・ラ・大地、東京慈恵医科大と共同臨床研究を開始
がん治療の化学療法時における、食事支援サービスの効果を研究
2024/10/29 12:34
世界初、切除不能膵癌に対する
Wilms腫瘍(WT1)樹状細胞ワクチンを併用した化学療法を考案・実施