乳がん〔にゅうがん〕

 乳がんはステージ(浸潤〈しんじゅん〉という所見の有無と病巣のひろがり具合)で治療方針が変わってきます。ステージという分類では、ステージ0からステージ4までがあります。

■ステージ0乳がん
 間質といわれる部分にがんが露出していない乳がんです。非浸潤がんともいわれ、転移・再発の起こりにくい乳がんといわれています。間質といわれる部分にがんが露出している浸潤がんでも、その大きさが5mm以下ならば非浸潤がんと同様の治療を実施することがあります。ステージ0乳がん(非浸潤がん)の確定診断のためには病変全体を顕微鏡で観察する必要があります。

[ステージ0乳がんの治療]
 手術による治療が主体です。手術治療については以下の「ステージ1から3乳がんの治療」にある、手術治療の項を見てください。
 手術は乳房(にゅうぼう)を部分的に切除して、乳房を残す乳房温存術と乳房をすべて切除する乳房切除術があります。乳房温存術のときは放射線療法を追加します。乳房温存術でホルモン受容体が陽性の場合、局所再発率を低くするためにホルモン療法を実施することがあります。術前に画像診断や針生検で非浸潤がんの可能性が高いと判断されれば、腋窩(えきか)の治療(リンパ節の郭清〈かくせい〉)を省略することもあります。

■ステージ1から3乳がん
乳がんが間質に露出している浸潤がんといわれる病変が、乳房内と乳房に近いリンパ節までにとどまっている状態の乳がんです。将来再発して乳がんで亡くなるリスクがあります。残念ながらいまの医学では再発のリスクをゼロにすることはできません。しかし、手術を実施したあと、内分泌療法・抗がん薬治療・放射線療法を適切に実施することで再発率を低くできます。
 手術後の治療は、患者さんの病状に合わせて実施内容を決定します。なお、リンパ節転移が手術の前からあったり、しこりが大きかったりする患者さんには手術の前に抗がん薬治療を実施することがあります。

□エストロゲンレセプター(ER)陽性乳がん
 エストロゲンという女性ホルモンの受容体が確認できた陽性乳がんの場合、原則的には内分泌療法を実施します。しかし、以下のような高い再発のリスク因子がいくつかある患者さんには抗がん薬治療を実施することがあります。
 ①HER2(ヒト上皮成長因子受容体2型)陽性乳がん
 ②ER陽性細胞の割合の少ない乳がん
 ③プロゲステロンレセプター(PgR)陽性細胞の割合の少ない乳がん
 ④リンパ節転移陽性乳がん
 ⑤脈管侵襲と呼ばれる所見の程度が強い乳がん
 ⑥浸潤径の大きさが大きい(特に5cmを超えるとき)乳がん
 ⑦核異型度が高度な乳がん
 ⑧Ki67という値が高い乳がん
 これらの検査は顕微鏡を使った病理検査を実施しないとわかりません。
 また、リンパ節転移がある場合、必要に応じて放射線療法を追加します。

□エストロゲンレセプター陰性乳がん
 エストロゲンという女性ホルモンの受容体が確認できなかった陰性乳がんの場合、原則的に抗がん薬治療を実施します。リンパ節転移がある場合は、必要に応じて放射線療法を追加します。

[ステージ1から3乳がんの治療]
<手術治療>
 乳がんの手術は乳房の手術と腋窩の手術に分けられます。
 乳房の手術は乳房を部分的に切除して、乳房を残す乳房温存術と、乳房をすべて切除する乳房切除術があります。乳房温存術の場合、がんを取り残すことによる局所再発率を低くするために放射線治療をすることが一般的です。なお、乳房温存術と乳房切除術では生存率がまったく同一であることを知っておく必要があります。
 乳房温存術は自身の乳房を残せるという利点があるいっぽう、程度の差はあれ変形をきたすこと、再手術することがあること(がん細胞を取りきれなかったとき)、あるいは、放射線治療で1カ月ほど毎日通院する必要があるなどの欠点があります。
 乳房切除術は、自身の乳房を失いますが、リンパ節転移がなければ放射線療法は原則不要で、再手術も原則おこなうことはありません。近年では乳房切除術後、あるいは乳房切除術と同時に乳房再建を受けることも可能になってきています。
 術前に転移によって腋窩リンパ節がはれていない場合は、センチネルリンパ節生検術(転移の起こしやすいリンパ節だけを切除する手術)を実施します。転移によって腋窩リンパ節がはれている場合、あるいはセンチネルリンパ節に転移があり、かつ乳房切除術を受ける場合は腋窩郭清(かくせい)術(腋窩のリンパ節をすべて切除する手術)が実施されます。

<内分泌療法>
 エストロゲンレセプター陽性乳がんに内分泌療法(特定のホルモンの活動を抑えることでがん細胞の増殖を抑える)を実施すると、再発率が低下して生存率が改善することがわかっています。閉経前であればタモキシフェン、閉経後であればアロマターゼ阻害剤を投与するのが一般的です。従来は5年投与しましたが、最近は10年投与の有用性も証明されています。
 副作用としては、タモキシフェンであれば更年期症状、子宮体がん、血栓症の副作用、アロマターゼ阻害剤であれば更年期症状、関節痛、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、血栓症の副作用がみられます。しかし、これらの副作用は程度が軽かったり、重篤なものも発生率はまれであったりして、多くの患者さんが服用することが可能です。なお、エストロゲンレセプター陰性乳がんには内分泌療法は無効です。

<化学療法>
 手術前後に適切な抗がん薬治療を受けると再発率が低下することがわかっています。エストロゲンレセプターが陰性だったり、陽性でも再発リスクが高いと判断されたりした場合に実施します。TC療法(ドセタキセルとシクロホスファミド)、AC(アドリアマイシンとシクロホスファミド)療法、ACタキサン療法などの治療がおこなわれます。また、HER2陽性であれば、上記抗がん剤治療に加えてトラスツズマブを投与すると再発率がさらに低下することがわかっています。
 抗がん薬の副作用は、使用する薬物にもよりますが、悪心、全身倦怠感、白血球減少による感染症・発熱、手足のしびれ、脱毛、アレルギー反応などがあります。実施にあたっては細心の注意が必要ですが、安全性は高いです。そして、多くの場合、治療の効果が副作用を上回ります。外来で実施するのが主流です。

<放射線療法>
 乳房温存術を実施した患者さんは原則として全員施行する必要があります。乳房切除術を受けた患者さんでも、リンパ節転移がある場合は、放射線治療を受けることを検討します。腋窩リンパ節に少なくとも4個以上転移がある患者さんが乳房切除術後に放射線治療を受けると再発率が低下して、生存率が改善することがわかっています。

■ステージ4乳がん
 乳がんが肺、肝臓、骨や頸(けい)部や胸腔内など、遠くのリンパ節に転移してしまっている乳がんです。この患者さんは完全にがん細胞を消滅させることが困難と考えられています。しかし、適切な治療を実施することで、長期にわたって日常生活を維持しながら生存することも可能といわれています。

[ステージ4乳がんの治療]
 治療は内分泌療法と抗がん薬治療が中心となります。治療の目標は副作用をできるだけ抑えて、病状の進行を遅らせることです。ステージ1から3の乳がん患者さんで再発予防のために実施する抗がん薬治療や内分泌療法と、ステージ4の患者さんのそれとはいくつかの点で異なります。薬の種類もステージ4向けの薬のほうが圧倒的に多いですし、ステージ4では副作用が強ければ投与量を減らすこともしばしばです。エストロゲンレセプターが陽性で、骨などの生命が切迫しないところに病変がある場合には、抗がん薬よりも副作用の少ない内分泌療法から開始することが多いです。手術療法を実施することはあまりありません。骨転移などで痛みなどの不快な症状が出現した場合は、病巣に放射線を照射することがあります。
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