治療・予防

寝かし付けを科学で検証
~哺乳類に備わる「輸送反応」(理化学研究所脳神経科学研究センター 黒田公美チームリーダーら)~

 「赤ちゃんは泣くのが仕事」と言われるが、ミルクをあげたり抱っこをしたりしても泣きやまないと、親にはストレスになることがある。

 このストレスを軽減するヒントになる研究を、理化学研究所脳神経科学研究センター親和性社会行動研究チームの黒田公美チームリーダー、大村菜美研究員らの国際共同研究グループが発表した。科学的根拠に基づく赤ちゃんの寝かし付けの方法を紹介する。

抱っこ歩き5分、寝付いたら座って5~8分

 ◇抱っこで5分間歩く

 今回の研究は、2013年に黒田チームリーダーらが報告した「輸送反応」を発展させたもの。輸送反応とは、泣いている赤ちゃんを抱っこして歩くと、泣きやんでおとなしくなる現象で、哺乳類に備わっている生存本能の一つとされる。

 「野生動物が外敵から逃れるとき、子は暴れたり騒いだりせず、親が運びやすいように協力するのだと考えられます」と、黒田チームリーダーは説明する。

 当時の研究では、抱っこ歩きをする時間が20秒間ほどと短かったため、歩くのをやめると赤ちゃんはまたすぐに泣き始めたという。今回は、生後7カ月以下の赤ちゃんとその母親21組の協力を得て、より長時間の輸送で泣きやみの効果を検証。泣いている赤ちゃんを母親が抱っこして5分間連続で歩くと、泣きやむだけでなく、約半数が寝付くことを発見した。

 ◇育児を科学で支援

 ところが、抱っこ歩きでやっと寝付いても、ベッドに下ろした途端に約3分の1の赤ちゃんが起きてしまった。起きなかったグループとの違いを調べた結果、ベッドに置く前に赤ちゃんが眠っていた時間がある程度長いと、起きにくくなることが分かった。

 眠ってすぐは眠りが浅い「ステージ1睡眠」の段階で、その長さは平均8分間程度。その段階を過ぎてより深い眠りに入ると、ベッドに置いても目覚めにくくなると考えられた。

 今回の研究では、赤ちゃんの覚醒と睡眠の状態を詳しく調べるため、心拍の変動にも注目した。泣いているときに速かった心拍は、抱っこ歩きを始めると急激に低下、眠りが深くなるとさらに遅くなった。

 「赤ちゃんの心拍数を計測すれば、ベッドに置くタイミングをとらえやすくなります」と黒田チームリーダー。スマートウオッチなどを利用して赤ちゃんの心拍数を把握すれば寝かし付けに役立つと考え、現在、育児をサポートするアプリの開発を進行中だ。経験や勘に頼りがちな育児を科学で支援する新しい育児の形を目指している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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