2024/12/06 17:18
キャラクター活用による病院内での心地よい空間づくりの取り組み
東京慈恵会医科大学 内視鏡医学講座(炭山和毅 講座担当教授、樺俊介、伊藤守)とエルピクセル株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役:鎌田富久、島原佑基)は、大腸内視鏡の画像情報(動画)からAI(人工知能技術)を用いて、大腸ポリープ候補の検出を支援するソフトウエア「EIRL Colon Polyp(エイル コロン ポリープ)」を共同開発し、深層学習を活用したプログラム医療機器として、薬事承認を取得いたしました。
ポリープの見落としを減らすことで、将来の大腸がん発生のリスク低減が期待されます。
研究成果のポイント
・ 大腸内視鏡の検査中にポリープ*を検出する人工知能技術を用いたオリンパス社製内視鏡の対応システムソフトウエアが薬事承認を取得。 (用語1)
・ 人工知能の学習データには約6万5千枚の多種多様な大腸ポリープ画像を使用。
・ 大腸ポリープの検出感度98.1%、特異度95.0%を達成。(用語2、3)
本ソフトウエアは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 革新的がん医療実用化研究事業「深層学習アルゴリズムを活用した大腸内視鏡用診断支援プログラムの実用化研究」(研究代表者:炭山和毅 東京慈恵会医科大学教授)の支援を受け、東京慈恵会医科大学がエルピクセル株式会社(分担研究者)とともに実施した共同研究の成果に基づき、製品化に至りました。
*表面型及び隆起型(表面隆起型)ポリープ
研究開発の背景
日本の大腸がんの罹患(りかん)率や死亡数は年々増加しており社会の高齢化に伴い今後も増えていくことが予想されます[1]。治療成績の向上のため大腸ポリープの早期発見と切除が重要になりますが、約20-40%の腫瘍性ポリープの病変が大腸内視鏡で見落としていると報告されています[2-4]。内視鏡医の腫瘍性ポリープの発見率(Adenoma detection rate: ADR)が1%上昇することで将来の大腸がんが3%減少できる可能性も報告されています[5]。ADRの改善を目標とするために専門医の育成や最先端の内視鏡システムの普及が現在行われていますが、費用や人材のコストが大きくかかるため広く一般的に効率の良い方法ではありません。東京慈恵会医科大学とエルピクセル株式会社は内視鏡医の技能や機械の性能によらず検査の精度と効率化の改善を図るため、従来の内視鏡システムにも対応が可能な人工知能を用いた大腸内視鏡検査支援システムの開発に取り組んできました。
研究開発の成果
東京慈恵会医科大学附属病院で行われた、大腸内視鏡検査で収集した約6万5千枚の大腸ポリープの画像データを学習用データとし、深層学習 (用語4) により大腸ポリープを自動で認識するコンピューター診断支援システムを構築しました。2018年5月時点に行なった精度の検証では、病変検出の感度および陽性的中率はそれぞれ98.0%と91.2%、通常内視鏡では発見が困難とされる平たんかつ微小病変に対象を限定した場合でも感度および陽性的中率は各々96.7%、93.7%と良好な成績でした*。
また、2019年から2020年にかけて国内4施設(国立がん研究センター中央病院、東京慈恵会医科大学附属病院、同大学附属第三病院、松島クリニック)で多施設共同無作為化比較試験(特定臨床研究jRCTs032190061、略称:CAD-COLON study)を実施し、実臨床においても腺腫の見逃し率が本システムを使用しない場合36.7%と比べて使用する場合13.8%に改善を認め、この成果の論文はJournal of Gastroenterology(2021年7月)に掲載されました*[6]。
*いずれも薬事取得製品の前世代モデルによる成果です。
図1. CAD-COLON Studyの試験デザインと結果
今回は初版としてオリンパス社製内視鏡の対応システムのソフトウエアについて単体性能試験を東京慈恵会医科大学で試験を実施し、結果が感度98.1%、特異度95.0%が得られ合格基準に達したため薬事承認申請を行ないました。そして2022年11月14日に医用画像解析ソフトウエア EIRL Colon Polyp(一般的名称:病変検出用内視鏡画像診断支援プログラム、承認番号:30400BZX00259000)が承認を取得できました。
図2. EIRL Colon polypのイメージ
今後の展望
今回の薬事承認の取得で臨床の実用化に向けて大きな進展となりました。すでに東京慈恵会医科大学附属病院の内視鏡室に本システムは設置され、臨床の現場での評価に基づき改良に取り組んでいます。診断支援のみならず腫瘍と非腫瘍の組織診断の予測までリアルタイムに行う人工知能支援システムや富士フィルム社製内視鏡対応のシステムを構築しており今後も更新していく予定です。より多くの皆様に幅広く質の高い大腸内視鏡検査を提供し大腸がんの発生を防ぐことを期待しています。
用語解説
1. 人工知能
人間のような知能を、コンピューターを使って実現することを目指した技術あるいは研究分野(人工知能学会監修、“人工知能とは”、近代科学社 (2016年) ISBN:978-4764904897)
2. 感度
存在しているポリープの内、人工知能が正しく検出できた確率
3. 特異度
ポリープが存在しない状況で、人工知能が正しく陰性と判定できた確率
4. 深層学習
層の数が多い階層的なニューラルネットワーク(deep neural network: DNN)によってデータから抽象度の高い内部表現を獲得させる方法(人工知能学会誌 = Journal of Japanese Society for Artificial Intelligence 28(4), 649-659, 2013-07-01)
[1] 最新がん統計 国立がん研究センター
[2]Zauber AG, et al. N Engl J Med. 2012 Feb 23;366(8):687-96.
[3]Triantafyllou K, et al. Endoscopy. 2017 Nov;49(11)::1051-60.
[4] Gralnek IM, et al. Lancet Oncol. 2014 Mar;15(3):353-60.
[5] Corley DA, et al. N Engl J Med. 2014 Apr 3;370(14):1298-306.
[6] Kamba S, et al. J Gastroenterol. 2021 Aug;56(8):746-757.
(2022/12/09 11:01)
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