治療・予防

リスクに応じた乳がん検診
~早期発見へ自分に何ができる?~ 静岡がんセンターの植松孝悦氏に聞く(下)

 国内で患者数が増え続け、死亡率にも改善が見られない乳がん。静岡県立静岡がんセンターの植松孝悦・乳腺画像診断科兼生理検査科部長は、現在の検診を問題視し、日本人に適した方法を導入するよう提起する。

 後半では、リスクに応じた選択肢を知っておく重要性、平等ではなく公平な検診のあり方、一人の女性として自分の乳房を守るためにはどうしたらよいのかについて解説する。

植松孝悦氏

 ◇急がれる受診・発見率の向上

 ―乳がんによる死亡率を下げるためには、どうしたらよいですか。

 「欧米のマンモグラフィー検診のエビデンス(科学的根拠)を満たすための重要な条件が二つあります。一つは感度が70%以上ある検査を行うこと、もう一つは受診率が70%以上あることです。どちらが欠けても、死亡率の減少は見込めません。

 日本の乳がん検診受診率は、国立がん研究センターがん情報サービスの公表値で、2022年度において47%しかありません。しかも、この数字は3年に1度行われる国民生活基礎調査の対象者の回答に基づいていて、実際の受診者数を集計したものとは違います。回答者の記憶違いなどによる誤差が含まれているので、正確ではないことが注記されています。つまり、受診率47%は過大数値の可能性が高く、実際はもっと低いのかもしれません。(*1)

 乳がん検診の感度とは、乳がんを検出する能力を指します。日本におけるマンモグラフィーの感度は、残念ながらデータがないため、正確な数値が分からないのが現状です。日本以外の公的な乳がん検診を行っている諸外国では、感度や特異度、乳がん発見率、受診率などについて毎年、科学的に集計できるシステムを構築して検診の有効性を確認しています。日本だけがそのような科学的根拠を確認しないまま、「やりっ放しの乳がん検診」を続けています。このことも日本人女性の乳がん死亡率減少効果が見られない原因の一つで、非常に大きな問題です。

 唯一、日本の乳がん検診のランダム化比較試験データであるJ-STARTという研究結果では、40代女性に対して行ったマンモグラフィー検診の感度が77%と出ています。ここで気を付けなければならないのは、日本では視触診も併用している点です。それによって見つかったものを除外し、マンモグラフィー単独で計算すると、感度は47%に低下してしまいます。(*2)

 感度が47%しかなければ、40代の女性が乳がん検診を受けたときに2人に1人はがんがあっても見つかりません。受診率、感度ともに上げるための対策が急務です」

新着トピックス