治療・予防

リスクに応じた乳がん検診
~早期発見へ自分に何ができる?~ 静岡がんセンターの植松孝悦氏に聞く(下)

 ◇検査手法、「平等」から「公平」へ

 ―乳がん検診をどのように変えればよいとお考えですか。

 「私も会員である日本乳癌学会や日本乳癌検診学会では、リスクに応じて検診の方法を変えるリスク層別化乳がん検診を推進しようという議論が進んでいます。

 市町村が行う公的なスクリーニングは、リスクや乳房の性質にかかわらず、40歳以上のすべての女性に平等に2年に1回のマンモグラフィー検診を行います。これに対し、リスク層別化乳がん検診では乳房の性質や年齢、家族歴などのリスクに応じて公平な検診を行います。

現在の公的なスクリーニングは、リスクにかかわらず40歳以上のすべての女性に平等に2年に1回のマンモグラフィー検診を行う。リスク層別化乳がん検診では、高濃度乳房の女性に対して検査を追加することで、すべての女性に公正な乳がん検診を実施

現在の公的なスクリーニングは、リスクにかかわらず40歳以上のすべての女性に平等に2年に1回のマンモグラフィー検診を行う。リスク層別化乳がん検診では、高濃度乳房の女性に対して検査を追加することで、すべての女性に公正な乳がん検診を実施

 特に日本人女性は45~49歳の乳がん発症リスクが高く、高濃度乳房の人も多い。また、社会や家庭の中心でもあるこの年代には手厚い乳がん検診が必要で、マンモグラフィーに超音波などを加えた検診の重要性はJ-STARTの結果からも明らかです。

 50代以降でも高濃度乳房の人は、超音波検査をプラスすれば感度が間違いなく上がります。同検査は乳腺の診療で広く行われていて、X線被ばくも痛みもありません。装置も比較的安く、導入しやすい検査です。

 ただ、『高濃度乳房の女性は超音波検査などを追加するとマンモグラフィーでは見つからない乳がんが見つかりますが、偽陽性(不利益)も増加します』と、利点と欠点を丁寧に説明する必要があります。個々の女性が個人の価値観でマンモグラフィー以外の検査を受けるかどうかを判断することがとても重要です。

 検診の頻度もリスクによって考えるべきだと思います。現在は一律で2年に1回ですが、脂肪性乳房の人は検診の間隔を空けてもいいかもしれないし、高濃度乳房の人は毎年検査した方がいいかもしれない。そのあたりももっと議論していかなければいけません。

 リスク層別化検診を導入すると、受診率の向上にもつながるというメリットがあります。リスクを自分で知ると、きちんと定期的に乳がん検診を受けるようになるという研究報告がいくつも出ています。

 また日本のがん検診システムは、未受診者や再検査が必要とされながら放置している女性がいても分かりません。検診を受けたかどうかをチェックし、受けていない人には受診勧奨するという仕組みができれば、一層の受診率向上につながるはずです。

 マンモグラフィー単独と、超音波検査を併用した場合の乳がんの発見率を比較したJ-STARTでは、40代女性は併用で乳がんの発見率が1.5倍になり、感度がよくなるというエビデンスが既にあります。

 国は死亡率減少効果がないと検診に使えないという立場を採っていますが、効果を調べるためには今後さらに20年は必要。その結果を待っていたのでは、現在生きている女性には恩恵がありません。

 そもそも、現在のマンモグラフィー検診にエビデンスがあるといっても、日本で既に24年間も公的な乳がん検診として行われているにもかかわらず、いまだに死亡率減少効果が見られていないのです。欧米のエビデンスについて科学的手法による十分な検討がなされないまま、そのまま日本人に適用する間違った検診方法は変えていかなくてはいけないと思います」

 ◇超音波技師の育成急務

 ―リスク層別化乳がん検診を導入する上で、どんな課題がありますか。

 「リスクの高い女性には超音波検査などを加える強度の高い検診を行う必要がありますので、同検査を行う技師の養成が急務です。マンモグラフィーに関しては資格のある技師は約1万8000人いますが、超音波は約4500人で圧倒的に足りません。資格のある医師も同様です。公的な超音波検査併用マンモグラフィー検診を行う場合は、国が都道府県に通達して予算化し、超音波検査を行うためのマンパワーを早急に増やさなければいけません。

 超音波検査は医師や技師のレベルが非常に重要です。マンモグラフィーはX線撮影した画像を複数でチェックできますが、超音波は検査を行った医師や技師が異常を見つけて、その画像を残します。異常かどうかを1人で判断するため、ある程度トレーニングをした人がやらないと意味がありません。

 欧米では、あおむけに寝た状態で乳房全体を撮影する全自動乳房超音波検査装置が導入されています。保存された画像を読影医師がチェックできるので、技師のレベルに左右されずに検査が行えます。将来の導入が期待されます」


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