治療・予防

リスクに応じた乳がん検診
~早期発見へ自分に何ができる?~ 静岡がんセンターの植松孝悦氏に聞く(下)

 ◇常に気に掛け早めに相談・治療

 ―検診が変わるとしても、かなり時間がかかると思います。いま、乳がんを早期発見するために一人の女性として何をすべきですか。

 「母親や姉妹など、親戚を含めて血縁者に乳がんを発症した人がいる場合は、遺伝性乳がんの可能性があります。乳腺専門医への相談も考えてください。現在の検診対象の40歳を待たずに、早めに乳がん検診を行った方がよい場合もあるので、乳腺外科、乳腺専門クリニックなどで検査の必要性を相談するのがいいでしょう。

 近親者に乳がん経験者がいない場合は、40歳になってからマンモグラフィーを受け、高濃度乳房と分かった場合は、超音波検査の追加の必要性があるかを医師や検診施設に相談するのがよいかと思います。自覚症状がなければ自費になりますが、自分で自分の身を守るという考え方の女性は迷わず受診するよう勧めます。

 ―定期的に検診を受けていれば、必ず乳がんを早期発見できますか。

 どんな検診にも言えますが、検診を受けたら100%見つかるというわけではありません。特に高濃度乳房の場合は、正常な乳腺とがんを見分けるのは非常に難しい。機械も進歩してきてはいますが、限界はあります。検診を受けて「異常なし」と言われ、大丈夫だと思っていたら、3カ月後に進行がんが見つかるということも起こります。

 そこで重要になってくるのが、自分の乳房の変化に関心を持つという『ブレスト・アウェアネス』です。毎日体を洗うとき、素手で乳房を意識して洗う習慣を付ければ、しこりになるタイプの乳がんなら早く気付けます。定期的な自己触診を求めても、なかなか続かない人が多いので、普段から意識・実践することが大切です。

 見つけたらすぐに病院に行くことも重要です。治る乳がんも1年放置すると治らなくなってしまいます。気付いていたのに病院に行くのを先送りにし、進行がんで見つかるケースがいまだに多いのはとても残念です」

ブレスト・アウェアネス

ブレスト・アウェアネス

 ―進行しても治療できるなら、早期発見しなくても大丈夫だと言えますか。

 「新しい抗がん剤が登場し、ある程度進行しても生存できる期間は長くなってきています。でも、乳がんは早く見つけて治療すれば、確実に治る確率が高いのです。進行すると治療も大変になりますし、生活の質(QOL)も低下してしまいます。死亡率の減少を目指すことは国の政策としては大切ですが、一人の女性の人生を考えたとき、できるだけ早期に発見して、最小限の治療で済ませることが女性のその後の幸せにつながるはずです。このことに誰も異論はないのではないでしょうか」

 ―治療する必要のない偽陽性の乳がんまで検出してしまい、不要な検査が増えてしまう可能性はないですか。

 「検査の感度が高いと、がんがたくさん見つかるようになりますが、偽陽性のものも検出してしまう頻度も高まります。要精密検査となった場合、針生検で組織を取って確定診断を行うわけですが、結果的に乳がんではなかったというケースが増えてくる可能性はあるでしょう。しかし、リスク層別化乳がん検診はリスクの高い女性に対して手厚く検査を行うので、偽陽性や偽陰性という不利益は少ないことが分かっています。

 乳がんは見つけないと治療ができません。早期に乳がんを見つけないと治るものも治らなくなってしまうということを、リスクの高い女性は重視した方がよいと思います。

 乳がんの好発年齢であり、高濃度乳房の多い40代は働き盛りで、子育て中の人も多い年代です。この年齢層に対して適切な検診を行い、乳がんにかかっても日常生活に大きな支障を来さずに治療ができるような環境をつくっていくのが、私たち専門家の責任だと思います」(ジャーナリスト/中山あゆみ)

植松孝悦(うえまつ・たかよし)
 静岡がんセンター乳腺画像診断科兼生理検査科部長。
 1992年新潟大学医学部卒業。2001年同大学博士号取得。92年~2001年まで新潟大学付属病院、新潟県立がんセンターなどで勤務。02年より静岡がんセンター、13年に生理検査部長、17年から乳腺画像診断科部長(兼任)。日本乳癌検診学会理事、日本乳がん検診精度管理中央機構理事など。日本医学放射線学会診断専門医、日本乳癌学会乳腺専門医。

【注】
(*1) https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/screening/screening.html

(*2) Uematsu T : Sensitivity and specificity of screening mammography without clinical breast examination among Japanese women aged 40-49 years: analysis of data from the J-START results. Breast Cancer 2022:29:928-31.

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