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猛暑がもたらす便秘と肌荒れ
~腸活で乗り切る~

 夏は便秘になりやすい季節だ。厳しい暑さのせいで腸の働きが鈍り、スムーズな排便に支障が出たりする。腸の機能低下は肌の荒れ・老化も引き起こす。専門家は予防・改善策として腸内環境を整える「腸活」の重要性を指摘し、食事を通じて発酵性食物繊維を積極的に取り入れるよう勧める。

吉汲祐加子医師

 運動不足や屋内外温度差も一因

 夏の便秘の原因としては、まず水分の不足が挙げられる。水を飲むと通常は9割が小腸で吸収され、残り1割が大腸に届く。しかし、夏は大量の発汗による体内の水分不足を補うために小腸の吸収量が増え、大腸に達する水分が減少する。その結果、便が硬くなり、排出しにくい状態が生じてしまう。「大腸の砂漠化」と言われる現象で、国立消化器・内視鏡クリニック(東京都国立市)の吉汲祐加子院長は「水分不足による大腸の砂漠化が夏の便秘の特徴だ」と説明する。

 食欲の低下やあっさりしたメニューも腸に悪影響を及ぼす。暑い時期は加熱しなくても食べられる、冷たい料理が多くなりがち。そうしたメニューは栄養が偏りやすく、排便に寄与する食物繊維の摂取量が減る傾向にある。

 また、強い日差しを嫌って外出を避けたり、夏バテで疲労を感じたりして運動不足になり、便を体外に押し出そうとする大腸のぜん動運動が弱まる。気温の高い屋外と冷房の利いた屋内を行ったり来たりすることによる自律神経の乱れもマイナス材料となる。

 ◇避けたい下剤依存

 これらの要因が相まって大腸の機能が損なわれ、便秘に悩む人が増えるとみられる。実際、同クリニックの患者について季節ごとに調べたところ、「夏は便秘を訴える人の数が年間平均と比べて2割増加した」(吉汲医師)という。

 便秘を解消する方法の一つに下剤がある。処方薬、市販薬とも多数出ており、実際に使った経験がある人も少なくないだろう。ただ、「刺激性の下剤を長期にわたって漫然と飲み続けると、依存性と耐性により、かえって便秘が悪化する可能性がある。日常的に行えるような、薬以外でのアプローチも必要になる」(同)とされ、やみくもな使用は避けた方がよい。

 ◇善玉菌の働きが皮膚守る

 多量の紫外線が降り注ぎ、ただでさえ肌に過酷な夏。腸内環境の悪化が皮膚への打撃に拍車を掛ける。最近は検査機器の進歩などもあって腸内細菌叢(そう)と皮膚の関係への関心が高まりを見せる。新たな研究によって知見が深まり、両者の密接な関連性が明らかになってきている。

 幾つかの論文に関する吉汲医師の解説によると、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸は皮膚のバリアー機能を高める。具体的には、皮膚の炎症を起こす因子を抑え、肌荒れやアレルギー疾患の症状を改善したり、発症を防いだりする。皮膚の水分保持や損傷治癒にも関わっているという。

 短鎖脂肪酸は食物繊維が腸内で発酵してできる。発酵には善玉菌が関わっている。腸内細菌のバランスが崩れて善玉菌が少なくなったり、食物繊維が不足したりすると、短鎖脂肪酸が十分にできず、皮膚を保護する力が衰えてしまう。

青江誠一郎教授

 ◇発酵性食物繊維で予防・改善

 便秘や肌の老化に直結する腸内環境の悪化をどう防ぐのか。大妻女子大学の青江誠一郎教授は「発酵性食物繊維を質を考慮して摂取することが腸の不調を乗り切る一つのヒントではないか」と話す。

 吉汲医師も言及したように、食物繊維から短鎖脂肪酸が作り出される。この物質は腸や肌の調子を整えるのにとどまらず、炎症性腸疾患の症状軽減、大腸がんの予防、心血管疾患のリスク軽減、肥満予防などさまざまな効果をもたらす。

 発酵性食物繊維は小麦ブラン、大麦、オーツ麦、小麦全粒粉、豆類、イモ類、ゴボウ、ラッキョウ、そば、バナナなどに多く含まれており、これらを意識的に取るようにしたい。ただ、特定の食材に偏らない方がよい。食材によって発酵に要する時間が違い、大腸の広範な部位にわたって腸内細菌の活動を促すには「複数の性質の異なる食物繊維を取ることが重要と考えられる」(青江教授)からだ。

小麦ブランのシリアルを加えた冷やし中華と冷ややっこ=日本ケロッグ提案

 ◇摂取量不足、「あと3グラム」

 日本人(20歳以上)が1日に摂取している発酵性食物繊維は男性がおよそ10グラム、女性が9グラムと推定されている。青江教授は「少し足りない」として、3グラム程度上乗せするよう求める。小麦ブランのシリアルだと1食分(40グラム)に4.4グラム含まれており、それだけで賄える量だ。実行に当たっては「穀物を多く取ること、すなわち主食を抜かないことが重要だ。ゴボウなどを除けば野菜は発酵性食物繊維が少ない」と注意喚起する。(平満)



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