Dr.純子のメディカルサロン

模擬裁判の演劇、司法への理解を
~竹下景子さんが出演~

 裁判員裁判は、一般市民から選ばれた裁判員が刑事裁判に参加する制度で市民の司法への関心と理解を深めることを目的に2009年に導入されました。それから15年以上が過ぎていますが、どのような仕組みなのか理解している方はまだ多くはないのではと思います。

 弁護士で東京農業大学客員教授の今井秀智さんは、これまでNHKのEテレの「昔話法廷」という教材ドラマ(小学高学年~中高生向け)の法律監修をするなどして、司法への理解を深める活動をなさっています。

  こうした昔話法廷を使った授業や模擬裁判などの実践的な授業は、教育的効果が非常に高いものとして、最近では学校現場で多く取り入れ始めています。

 今回、大人にもこうした司法への理解を深めてもらうことを目的にした模擬裁判の演劇というユニークな試みを始めた弁護士の今井秀智さんにお話を伺いました。

(聞き手・文 海原純子)


「極刑」松本公演の様子

 海原 今井さんは、以前から「模擬裁判を大人にも体験してほしい」と考えていらしたと聞きました。

 今井 そうです。高校や中学校で行っているような実践的な模擬裁判を、ぜひとも大人にも体験してほしいと十数年前から考えていましたが、なかなか実現できませんでした。これまでカルチャースクールなどの協力を得て、大学にある模擬法廷を使って模擬裁判を仕掛けたのですが、まったくと言っていいほど人が集まりませんでした。

 ◇出演者はオーディションで

 そんな中で、たまたま知り合いになった劇団の方から「模擬裁判を『演劇』として仕掛けてみたら?」とアドバイスをいただきました。そこでまず2023年1月に東京・渋谷で実験的に2公演を行いました。いずれも100人もの参観者が集まり、確かな手応えを感じたので、9月に3公演を追加しました。次いで、昨年6月に横浜で2公演、さらに11月に初の地方公演として、長野県松本市で2公演を行いました。この松本では、地元の劇団関係者とコラボし、出演者は地元の人たちからオーディションで選びました。

 海原 出演者をオーディションで選ぶというのはユニークな試みですね。

 今井 裁判員裁判はもともと地元で起きた事件を地元の人たちが裁くものです。被告人や証人を市民に演じてもらう、まさに市民がつくる参加型演劇となりました。2公演とも好評で200人を超える参観者で会場が満杯になりました。

 そして、市民の熱が冷めやらず、今年3月22日に追加公演しました。

 ◇自身の事として考えるきっかけに

 海原 「演じる」ということはその人の立場になって真剣に考えることになりますし、共感が生まれますよね。参加した方の裁判への理解や罪を犯す状況への深い理解が生まれると思います。

 今井 これまでニュースの世界でしか犯罪を見ていなかったのが、自分自身の事として考えることになります。犯罪者も被害者もさまざまな背景があり、同じ罪名の事件でもどれ一つとして同じ事件はない。判断に大いに迷うことになります。

 海原 裁判のテーマは「極刑」ということで非常に重いテーマですが。

 今井 ズバリその名の通り、被告人を死刑にするか、死刑を回避するかを判断してもらいます。これまでさまざまな模擬裁判が行われていて、有罪か無罪か、実刑か執行猶予か、というものはあるのですが、死刑を求刑したものはありません。しかし、いずれは誰もが向かい合う可能性のある場面ですので、避けて通ることはできません。この演劇はこの究極の選択を観客に迫ります。

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