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口腔がんの診断数、著名人のがん公表後に約1.5倍に

Oral disease、2025年5月15日

研究成果の概要

 公立大学法人名古屋市立大学大学院医学研究科の小山史穂子寄附講座講師(地域医療連携推進学)らの研究チームは、全国がん登録を用いて口腔・咽頭がんの月別診断数について分析を行い、著名人の口腔がん公表後に口腔がんの診断数が約1.5倍に急増していることを明らかにしました。

 性別、年齢、詳細な部位、がんの進展度などの詳細な分析を行ったところ、男性、70歳代、舌および口腔底、がんの進展度が限局の場合が同様の急増が認められました。

 これらの知見は、著名人のがん公表後のメディア報道によって、多くの一般住民の認知度を高め、受診行動へと促すことを示唆しました。

【研究のポイント】

 ・全国がん登録を用いて、口腔がんの診断数について月別の推移を観察したところ、2019年2月にある著名人が口腔がんであることを公表した後、急激に口腔がんの診断数が増えていることが明らかになった。

 ・口腔がんはがんの中でも希少がんに分類され、一般住民の認知度は低い。著名人のがん公表によってテレビや新聞などメディア報道が増え、一般住民の認知度が急増し、駆け込み受診が増え、診断数が増えた可能性が高い。 

【背景】

 これまで、著名人による健康関連の情報公開の後、スクリーニング検査の受診率や情報収集の増加といった社会影響について研究が実施されてきた。例えば、ハリウッド女優が特定の遺伝子変異があることを知り、予防的両側乳房切除術を受ける決断をしたことを公表したとき、がん遺伝子クリニックへの紹介は2~3倍に増加したことや、 日本では、水泳選手が白血病の診断を公表した際に、骨髄ドナー登録の増加が見られたことが先行研究によって明らかになっている。

 しかしながらがん公表後の診断数への影響について議論した研究は少なく、本研究では、2019年2月に著名人が口腔がんであることを公表した前後の口腔がん月別診断数について、検討を行った。

【研究の成果】

 口腔・咽頭がんについて、月別診断数の推移を観察したところ、口腔がんの著名人ががんを公表した2019年2月前後で診断数が急増していることが明らかになった。2019年1月の全国の口腔がん診断数が784件なのに対して、2019年3月では1,195件と約1.5倍であった。詳細な分析によって男性、70歳代、舌および口腔底、がんの進展度が限局の場合が同様の急増が認められた。

図:口腔・咽頭がんの推移の比較 (点は診断数の実数をプロット、線はJoinpoint回帰分析より算出)

【研究の意義と今後の展開や社会的意義など】

 本研究は、著名人の口腔がんの公表によって、診断数が急増することを明らかにした。

 口腔がんは先行研究より男性、50-80歳代、舌がんでの罹患が多いと報告されている。本研究は検査数の推移ではなく、罹患数の推移であるため、口腔がん罹患のボリュームゾーンでの急増が認められたと考えられる。

 がんの進展度が限局、口腔底がんの罹患が急増していることは、著名人のメディア報道によって、一般住民に口腔がんの存在が周知、注目されたことや、一般歯科医師が経過観察期間なく、確定診断のために口腔外科へ紹介されたことなどが考えられる。

 本研究では、診断数について推移を観察したものであり、死亡数については検討を行っていない。生涯を通じて有害でない、あるいは治療の必要がない病変を検診や検査で見つけてしまい、それらを治療が必要なものと誤って診断してしまう過剰診断の可能性もあるため、今後の口腔がんによる死亡の推移についても検討を行う必要があると考えている。

【用語解説】

 口腔・咽頭がん・・・口腔がんと咽頭がんの総称。 口腔がんは口の中に発生する悪性腫瘍で、舌、上下の歯肉(歯ぐき)、頬粘膜(頬の内側)、口腔底(舌の下の粘膜部分)などを含む。咽頭がんは咽頭にできる悪性腫瘍で、できた部位により上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がんに分けられる。

 がんの進展度・・・全国がん登録で用いられるがんの広がり具合の指標。上皮内がん、限局、隣接(領域)、遠隔に分類。

 Joinpoint回帰分析・・・時系列データに折れ線を当てはめ、統計学的に有意な変曲点(トレ ンドに変化が生じた点)と年変化率(およびその 95%信頼区間)を求める手法。

【研究助成】

 本研究はJSPS科研費 JP22K17280、JP19H03861、大阪対がん協会がん研究助成奨励金の助成を受けたものです。

【論文タイトル】

 Effects of Public Disclosure of a Japanese Celebrity's Oral Cancer: Trends in Oral Cancer Diagnoses

【著者】

 小山史穂子*1,2、田淵 貴大2,3、中田 佳世2、森島 敏隆2、内田 修爾4,5、石橋 美樹6、宮代 勲2

 所属

1名古屋市立大学 大学院医学研究科 地域医療連携推進学

2大阪国際がんセンター がん対策センター

3東北大学 大学院医学系研究科 公衆衛生学分野

4大阪大学 大学院歯学研究科 顎顔面口腔外科学講座

5和泉市立総合医療センター 歯科口腔外科

6大阪国際がんセンター がんオーラルケア・歯科口腔外科

(*Corresponding author)

【掲載学術誌】

学術誌名 Oral disease

DOI番号:https://doi.org/10.1111/odi.15367

【研究に関する問い合わせ】

名古屋市立大学 大学院医学研究科 寄附講座講師 小山 史穂子

愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1

【報道に関する問い合わせ】

名古屋市立大学 病院管理部経営課

愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1

TEL:052-858-7113  FAX:052-858-7537

E-mail:hpkouhou@sec.nagoya-cu.ac.jp

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