一流に学ぶ 人工股関節手術の第一人者―石部基実氏
(第4回)手術技術向上へ奮闘=患者の誤解、不安を払拭
石部氏がNTT札幌病院(現・NTT東日本札幌病院)整形外科に赴任した1994年当時、まだ人工股関節の手術は年間50件ほどしかなかった。
「当時は人工股関節は最後の手段だから、できるだけ後にしようという考えが主流でした。このため30~50代でどんなに股関節に痛みがあっても、患者は痛み止めと湿布で我慢するしかなかったのです」
人工股関節置換術とは、主に変形性股関節症(最終ページに用語解説)が進行し、骨が大きく変形して関節軟骨も消失してしまった股関節を外科的に取り除いて、金属やセラミックなどで作られた人工的な股関節に置き換えるという手術だ。
◇痛みが消える
人工股関節は10年程度で取り換える必要がある。再手術は難しいので、できるだけ高齢になってから手術した方がよい―。こんな誤解が多く、手術に二の足を踏む原因にもなったという。
「自分の患者に手術前の説明をする時には、再手術の確率は平均で年に1% 以下程度と話しています。これは、1年間で交通事故に遭うのと同じくらいの確率です」
◇海外で手術トレーニング
2003年に、日本でいち早く最小侵襲手術 (MIS =Minimally Invasive Surgeryの略)を導入した。病院に営業に来ていたメーカーの担当者から米国でMISが普及しているという話を聞き、実際に現地に行って手術のトレーニングを受ける機会を得たのがきっかけだった。
「オーストラリアや米国で死体を使って実際に手術をしました。トレーニング用の死体が用意されていたのにはちょっとびっくりしましたけど、これでMISのイメージをつかみました」
従来の手術法では15~20センチの切開が必要で、入院期間も約2か月に及んだ。人工股関節の手術を受ける患者は7対1の割合で圧倒的に女性が多い。脚の付け根の目立たない場所とはいえ、大きな傷が残るのは誰もが避けたいし、長期間の入院も望まない。MISの場合、傷は7センチ程度で、入院期間も4~12日程度と大幅に短縮できる。
「傷が小さいことで身体へのダメージが少なく、午前に手術した患者さんは全身の状態が良ければ、手術当日の午後には歩く練習をしています。MISは技術的に難しいので当時は全国でも導入している病院はまだ少ない。新聞に取り上げてもらってから、患者が全国から来るようになりました」
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