一流に学ぶ 人工股関節手術の第一人者―石部基実氏

(最終回)他人の幸せも考えよう=40代で武道道場へ

 石部氏が尊敬する人物は、勝海舟のまたいとこに当たる幕末の剣聖、男谷信友(別名・精一郎)だ。剣の腕に優れていただけでなく、人柄が穏やか。酒に酔っても、翌朝はいつもの時間通りに起きて掃除をする。家人や門人を叱ったことがない―などというエピソードが伝わる。

 「どんな相手と試合をしても3本勝負のうち1本は相手に花を持たせる、というところが好きですね。自分に揺るぎない自信があるからできること。僕も見習わなきゃいけないと思っています。男谷信友のように穏やかに手術をしたい。手術の時に怒鳴り散らすような外科医にはなりたくないですね」

 ◇決して感情的にならず

 石部氏自身も人工股関節手術で他の追随を許さないだけの実績を積んできが、「競争相手を打ち負かしてやる」と考えたことはない。

 「僕の場合、コツコツと手術をしてきた結果として症例数が積み重なってきたので、他者との勝負ではないですね」

 クリニックのスタッフたちには細かく丁寧に指導するが、感情的になることは皆無だという。

 長年、共に働くスタッフも「普段の診察のときも手術中も、不機嫌になったり、怒ったりする姿を一度も見たことがありません」と強い信頼を寄せる。40代になってから始めた少林寺拳法にも、男谷精一郎に通じる考え方がある。

 「半ばは自己の幸せを 半ばは他人(ひと)の幸せを」。少林寺拳法の創始者、宗道臣(そうどうしん)の言葉だ。診察室に、この言葉が記された色紙が飾られている。

 「相手の幸せだけを考えるのは難しいかもしれないけれど、自分と半分というところが気に入っています」

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一流に学ぶ 人工股関節手術の第一人者―石部基実氏