一流に学ぶ 人工股関節手術の第一人者―石部基実氏

(第4回)手術技術向上へ奮闘=患者の誤解、不安を払拭

 ◇コンピューターで確実性向上

 2004年には、コンピューター制御の手術支援機器・ナビゲーションシステム(最終ページに用語解説)を導入し、手術の確実性を向上させた。CT検査の結果を基に、最適な人工股関節の大きさや設置位置をコンピューターが自動計算するため、手術の切開創が小さくても安全で正確に治療できるようになった。

 こうした努力の結果、出産後に股関節の痛みが出てしまい、子どもが成長するまで我慢をしなければならなかった30代、仕事を辞めなければと悩んでいた40代、親の介護が大変な50代も、手術で痛みから解放されるチャンスが訪れた。

 「命に関わる病気じゃないから我慢するというのは逆だと思うんですよね。生きていて痛いのはまさに拷問。痛みだけで生活範囲が狭くなってしまいます。少しでも早く痛みを取り除いて、万が一、再手術が必要になったらすればいい。再手術が難しいから人工関節手術を避けるのではなく 、その技術を身に付けるのが医師の役目です」

 用語解説変形性股関節症 股関節に痛みが生じる原因の多くを占める病気。加齢や日常生活での負荷などによって、次第に股関節の軟骨がすり減ってしまい、最後には骨そのものが変形していく。有病率は約20人に1人と意外に多い。日本人の場合、生まれつき臼蓋形成不全(大腿骨を支える骨盤側のくぼみの形状が不完全な状態)の人が多く、変形性股関節症を起こしやすいことが指摘されている。

 用語解説「ナビゲーションシステム」 自動車のカーナビゲーションのように、どの位置に人工股関節を設置すればよいのかをコンピューターで計算し、正確に誘導してくれるシステム。手術前にCT検査を行い、検査結果を基に使用する人工股関節の最適なサイズと位置をコンピューターが計算する。さらに確認修正したデータをUSB メモリーに保存し、それを病院の手術室に設置されている赤外線カメラ付きのコンピューターに読み込ませる。赤外線カメラで骨を削る位置や深さ、人工股関節の位置を確かめながら手術を進めていく。このため、小さな切開創で視野が狭くなっても安全で確実な手術が可能となる。

(ジャーナリスト・中山あゆみ)

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