「医」の最前線 AIに活路、横須賀共済病院の「今」

〔第4回〕病院完結から地域完結へ
役割分担して治療

 人工知能(AI)による働き方改革を進めている横須賀共済病院の長堀薫院長は院長就任直後、救急車を断らず、急患をすべて受け入れる方針を徹底することにした。それを可能にするためには、1人の患者の治療を一つの病院で完結するのではなく、地域の医療機関と連携し、役割分担していく必要がある。患者が安心して治療を継続できるよう、継ぎ目のない地域連携が急ピッチで進められた。

 ◇地域の病院をつなぐ

 横須賀共済病院は、地域の医療機関と役割分担することで、高度急性期医療の病院としての立ち位置を明確に打ち出した。

 手術など高度な治療が終わった患者は、回復期や慢性期の病院に転院するか、在宅での療養に移行する必要がある。同院には慢性期医療を担っていた分院や在宅医療を支える訪問看護ステーションも併設されていたが、いずれも閉鎖。回復期リハビリ病棟は一般病棟に転換し、高度急性期医療の機能だけを残した。

入院説明

 高度急性期病院だからといって、行き先がはっきりしないまま退院させられたのでは、患者が「病院から追い出された」「見捨てられた」と感じてしまう。そうならないために、入院する前の段階で、入院日数の目安、退院後はどんな選択肢があるのかをあらかじめ情報提供し、ある程度の見通しを共有するようにしている。

 地域の医療機関をつなぎ、患者の移動をスムーズにするために重要な役割を果たしているのが、長堀氏が院長就任後に拡充した地域連携センターだ。

 「まず、入院予定の患者の状況を把握し、入院後は病棟の看護師がスムーズに退院できるかどうか検討します。退院が難しい場合は、患者さんやご家族と面談し、地域の医療機関やケアマネジャー、訪問看護師らと調整を図ったうえで最適な転院先を決定します」

 ◇顔の見える関係

 転院先として地域の11病院と連携協定を結んだ。院長就任直後、連携先の病院の医師らが集まる会合の席上、長堀氏は「ふんぞり返っている病院のイメージを変えようと思っています」と口火を切った。腹を割って話すことで、お互いの状況を率直に報告しあう関係ができてきた。

 連携先の病院へは職員がまめに足を運び、ベッドの空き状況などを把握、顔の見える関係を続けているという。「前の病院はこんな点がよかった、悪かった」という患者からの評判も耳に入る。改善すべき点があれば、すぐに対応する。

 「うちの病院の医師が連携病院に往診に行くこともある。今後は看護師同士の連携も始める予定」と長堀院長。

 ◇治療計画も地域で共有

 病院と地域の医療機関が一人の患者を一つの流れでみていくために、地域連携クリニカルパスという共通の診療計画も作成した。

 クリニカルパスとは、通常、入院前の検査から入院中の治療の流れについて一つの病院内で完結して作成するものだが、転院先での治療もこの計画書に含めた。

地域連携センターの活動内容

 脳卒中や大腿(だいたい)骨頸部骨折など、長期療養が見込まれる患者に対して、横須賀共済病院が急性期医療を担当し、提携施設は回復期や慢性期の医療を担当する。横須賀・三浦地域で6施設、さらにエリアを広げて7施設と提携している。

 「地域連携パスは、急性期の治療を終えたあとも質の安定した医療を提供するために重要」と長堀院長。退院後の患者がどこへ行っても安心して療養できる環境を整えた。

 ◇在宅療養とも連携

 診療所との連携は長堀氏がこの病院の副院長だった2011年当時から進めてきた。その時期、横須賀共済病院では在宅療養外来がスタートした。

 「診療所の医師が週2回来て、在宅療養の希望があった患者さんについて、医師同士でカンファレンスを行います。在宅への移行が可能と判断した患者さんは、退院支援ナースも交えて在宅診療所の医師と面談します。事前に医師と顔見知りになれるので、患者さんも安心です」

 横須賀市の2016年度の在宅死亡率は22.9%と人口20万人以上の都市で全国トップを誇る。複数の医療機関が連携し、1人の患者を地域全体で切れ目なく支えていくことで、最後の瞬間まで安心して暮らせるまちづくりが実現する。(医療ジャーナリスト・中山あゆみ)

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