こちら診察室 タンパク質にまつわる栄養の話

サプリメントとアスリート
~必要かどうか検討しよう~ 第9回(最終回)

 第7回・第8回と、タンパク質のサプリメントについて解説しました。前回は、特に食事摂取量が少ない高齢者の方や健康状態が思わしくなく食事を取れない方は、タンパク質が強化された食品やプロテインなどの商品を使った方がよいかもしれない、とお伝えしました。今回は、スポーツをしている人(アスリート)について考えてみましょう。スポーツ選手の間では、プロテインやアミノ酸は広く知られていて、現在利用中の方も、利用経験のある方もいらっしゃると思います。しかし、本当に全てのスポーツ選手に必要なのでしょうか?

 ◇スポーツフード

 アスリートにとっては、日々のトレーニングに見合ったエネルギーと各種栄養素を食事から摂取することが必須です。しかし、食事の摂取だけでは運動に見合った量、つまり必要量を摂取し切れない場合があります。国立スポーツ科学センター(JISS)では、そのようなときに状況に応じて不足するエネルギーや栄養素を補うために、「スポーツフード」を利用することを勧めています。表に、JISSのホームページ(HP)より「スポーツフードの種類と用途」を掲載しました。これまでに解説してきたタンパク質を含む「スポーツフード」には、プロテインサプリメントとスポーツバーがあります。

スポーツフードについて知ろう

 ◇勧められるケース

 以下のケースでは、スポーツフードの利用を検討することをお勧めします。

 〇体調不良で食べられない

 感染症などの病気にかかると、体が炎症反応を起こすため発熱します。そうすると、普段は強靭(きょうじん)な体力を持つアスリートでも、食欲が落ちたり、気力が減退したりするといった症状が表れます。その際は、スポーツフードの利用を検討してください。体調不良の際には、消化吸収能力も落ちますので無理にいつも通りの食事をしようとすると、逆に胃腸への負担をかけてしまうことになります。

 〇アレルギーなどがある

 肉や魚、牛乳や卵などのタンパク質源はアレルギーの原因食品にもなります。もし、これらのタンパク質源に対するアレルギーがあって、代わりとなる料理や食品の準備が困難な環境にいる場合は、スポーツフードの利用が一つの解決策になるかもしれません。ただし、利用の際には事前に主治医に相談し、原材料を確認するなど十分に検討してから利用してください。

 〇運動後、リカバリーのための食事がすぐにできない

 運動後のリカバリーのためには、運動直後に糖質やタンパク質の補給をすることが大切ですが、すぐに食事ができる状況は少ないかもしれません。そのようなときには、スポーツバーなどの利用も検討するといいでしょう。

 〇食環境が異なる遠征時

 遠征のときには、食事環境が日常と大きく異なる場合があります。また、移動に時間を要するため、食事を取る時間がないことも考えられます。そのような事態に備えて、荷物にスポーツフードを入れておくとよいでしょう。ただし、日常の練習時に試してみて、味の好みや胃腸の調子をきちんと確認しておくことが大切です。

 海外遠征では、衛生環境が悪い国や地域に行かなければならないこともあります。その際は、確実に衛生管理されている食事が摂取できる保証がない限り、スポーツフードの準備は欠かせません。エネルギーやタンパク質、糖質の補給ができる簡単な食品として重宝されるはずです。

 ◇成長期(小学生~高校生)の誤った認識

 近年、プロテインの利用は、高校生にとどまらず中学生、小学生にまで広がっているようです。しかし、十分な食事摂取量が確保できているにもかかわらず、プロテインまで摂取している結果、タンパク質の過剰摂取に陥ってしまっている選手に何人もお会いしたことがあります。成長期の選手や保護者に「タンパク質をたくさん取った方がよい」という誤った認識がまん延しているのかもしれません。

 タンパク質を過剰に摂取すると、肝臓に負担をかける→疲れやすくなったり、回復が遅れたりする→コンディションが保てない―といった流れで、パフォーマンスの低下が懸念されます。また、筋肉を増やしたいからプロテインを利用しているのに、タンパク質の過剰摂取により、筋肉ではなく体脂肪が増えてしまう、という悪循環に陥ることもあります。こうしたことから、成長期のアスリートが安易にプロテインサプリメントを利用するのは避けるべきだと考えられます。

 ◇スポーツ栄養士らに相談を

 タンパク質に限らず、全ての栄養素についてサプリメントを利用するのであれば、本当に必要かどうかを確認してください。とはいえ、自分で確認するのは困難ですので、公認スポーツ栄養士や管理栄養士に相談することをお勧めします。

 ◇ドーピング禁止物質に注意

 皆さんがサプリメントと思っている商品には、どんな物質が入っているか分からない物も多くあります。最近では、海外からの輸入品も出回っていますし、ネット販売によって、直接海外から製品を購入することもできます。そのような商品を安易に使用している選手が存在しますが、知らぬうちにドーピング禁止物質を口にしてしまう可能性があります。ドーピングというと、選手が筋肉増強剤などを意図的に使用することを想像するかもしれません。それだけではなく、禁止物質をサプリメントや食材から、うっかり口にしてしまうケースも多く発生しています。こうしたことを防ぐために、アンチ・ドーピングの概念について学び、サプリメントを使用するならば、アンチ・ドーピングの認証がされた商品を選ぶなど、注意深く心掛けてほしいと思います。

 ◇終わりに

 さて、全9回にわたってタンパク質に関する話題を採り上げてきました。途中、だいぶ本筋から脱線しながらのコラムでしたが、いかがでしたでしょうか。タンパク質にまつわる正しい情報を一人でも多くの皆さまに知っていただける機会となっていましたら、うれしいです。(完)

 今村佳代子(いまむら・かよこ)

 管理栄養士・公認スポーツ栄養士。鹿児島純心大学・看護栄養学部健康栄養学科准教授。日本女子大学家政学部食物学科卒業。病院勤務を経て同大学大学院修士課程修了。現在は大学で管理栄養士養成に従事する傍ら、高校生・大学生アスリートへ栄養サポートを実施する。Webサイト「アスレシピ(日刊スポーツ新聞社)」に『KAGOSHIMA×食』グループでコラム・レシピを執筆。

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