ダイバーシティ(多様性) 当事者が見た色覚特性のキラキラした世界
色のバリアフリー社会目指す
~見分けやすさに配慮を~ 【第9回(最終回)】
皆さんはカラーバリアフリーという言葉を聞いたことがありますか。ご高齢の人や、お体に障害がある人が生活しやすいように環境整備を行うことがバリアフリーと言われます。同じように、色覚特性を持つ人が認識しやすいようなデザインやカラーリングを行い、視認できなかったり誤認したりするのを防ぐようにすることです。こんにちは、長瀬です。今回は最後のお話として、今までを振り返りながら、カラーバリアフリーと色覚特性の今後について語っていきたいと思います。
◇当事者は一歩踏み出して
このコラムの表題の通り、Ⅱ型2色覚、色盲と言われる私が見ている世界もカラフルでキラキラしています。色覚特性を持っている人全員が白黒の世界を生きているわけではありません。
右にあるように、見える色の数が少しずつ減っていくイメージを持っていただければと思います。日本では男性が20人に1人、女性は500人に1人と言われ、人口の2.5%、323万人以上が色覚特性という計算になります。全国で「佐藤」姓が約190万人、「鈴木」姓は約180万人。皆さんの知り合いにも佐藤さんや鈴木さんがいらっしゃると思います。色覚特性とはそのくらい身近なものです。
ところが、その特性を持っていることを自覚していない人もいます。自覚していても、具体的にどういうものか詳しく理解しておらず、「たまに困ることがある」程度の認識しかない人がほとんどです。戦時中の名残やいじめ、差別などの影響から「良いものではない」という認識は根強く残っており、「色弱は他人に言っては駄目」と言われた人も多いのではないでしょうか。こういった背景があったため、「言わない」「知らない」につながったのだと考えられます。幸い、理解の進んだ令和の今は、そういう話をあまり聞くことが無いように思います。
色覚特性のほとんどは遺伝によります。Ⅰ型、Ⅱ型に属する人が99%以上を占めるため、ほとんどは赤や緑が見分けにくいと思っていただいて構いません。リンゴは赤、ピーマンは緑というように、色の情報は知識で補うことができます。信号機の青と黄が見えていれば、取捨選択により、残りの色は赤と認識することが可能です。最近は発光ダイオード(LED)式の信号機も増え、色盲の私にも、より見やすくなっているように思います。このように表示方法や性能をカスタマイズし、見やすくすることをカラーユニバーサルデザイン(CUD)と言います。
色覚のずれを補正できるレンズもありますが、色覚特性を持つ人全員が気持ち良く使えるものではありません。また決して安くはないため、使っている人はごく少数です。改善が簡単にできないからこそ、周囲の協力が必要になってきます。ほんの少し「困っている人がいる」と知ってもらうだけで、カラーバリアフリーが一歩進むのだと思います。色覚特性を持っている本人が一歩を踏み出し、相互理解を深めていかなければなりません。
◇日常生活シーンで取り組み促進
有名なスマホゲーム「パズドラ」の画面です。このゲームは専用のフィルターを付けることで、色覚特性を持っている人でも色を認識しやすくなります。画像に付けた私の解説通り、少しずつ処理を加え、6色のドロップ(玉)を見事に区別しています。この画面を見た私の妻の感想は「変な色で見えにくいね」。私もプレー当初は違和感がありましたが、慣れた後にフィルターを外してみると「フィルター有りの方が圧倒的に見やすい」と思いました。これも一つのCUDです。ただし、一般の人にとっては不思議な色味、地味な色味に映るようです。何でもかんでも色覚特性を意識した色にしましょうという話ではありません。日々の生活の中で、間違うと問題が起こるかもしれない事柄について取り組みを進めてもらいたいのです。
インターネットで「デザインの敗北」と検索すると、トイレマークの問題が出てきます。例えば、色の違いが分からなかったせいで私が間違えて女性トイレに入るのは看過できない問題だと思いませんか。もう時効だと思うのでお話ししますけど、20年ほど前の、私がまだ自身を色弱だと思っていた頃のお話です。初めて訪れた施設のトイレに入ると、そこには個室しかありませんでした。この時点で気付かない私も間が抜けていますが、用を済まし、手を洗っていると清掃員の女性が入ってきて、とても驚いた顔をしました。通報されなくて良かったと思います。
右の図のような一般的なものであれば、色が付いていなくても幾度となく見たトイレ記号ですから、しっかりと脳に刷り込まれています。簡単に男性用、女性用を判別できます。ところが、真ん中は男女の肩幅が一般的なものとは逆。しかも、コンクリート壁面に薄い水色とピンクで描かれています。「MEN」「WOMEN」の頭文字を取ってデザインしたようですが、既存デザインとの違いやⅠ型、Ⅱ型ともに見えづらい3色(グレー、水色、ピンク)を用いたことがたたり、CUDからほど遠くなってしまいました。
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(2023/03/17 05:00)