ダイバーシティ(多様性) 当事者が見た色覚特性のキラキラした世界

色のバリアフリー社会目指す
~見分けやすさに配慮を~ 【第9回(最終回)】

 ◇世界2億人の便益に

 皆さんが知っているCUDをもう一つだけお話しします。フリーイラストの金字塔「いらすとや」です。今の世の中で見たことがない人は少ないのではないでしょうか。では、下の「映画館で前の人が邪魔」というイラストを見てみましょう。

 頭髪に、しま模様が入っているのにお気付きだと思います。これはディザリング処理というもので、近くに似た色があっても見分けがつきやすいようにする手法です。このおかげで映画館の壁と頭髪の色の違いが認識しやすくなっています。この事実を知った時、絵を描く人間としても、色覚特性を持つ人間としても、とても大きな衝撃を受けました。ほんわかした軟らかい絵にCUDへの配慮がてんこ盛りだったのです。

 最後に、CUDにおける三つのポイントをお伝えしておきます。もしこれから、職場の掲示物、街の祭りのポスターなどのデザインをする機会があれば、以下を心掛けてみてください。
 ①できるだけ多くの人に見分けやすい配色を選ぶ
 ②色を見分けにくい人にも情報が伝わるようにする
 ③色の名前を用いたコミュニケーションを可能にする

 前回の最後に「CUDの未来」とスケールの大きなことを言いましたが、今すぐに変わるわけではありません。画家に「CUDを考えて描いてください」と依頼するのは無理で、全ての事柄に適用すべきだとは考えていません。芸術分野では繊細なカラーリングが必要なのは当然です。私が再三申し上げているのは、多くの人に見てもらったり使ってもらったり説明したりするもの、いわば生活を営む上で接するデザインが対象です。先に述べたトイレやカレンダーなどの使い勝手が良くなれば十分です。色覚特性を持っている人は世界に約2億人います。CUDが広まって当たり前になり、2億人が生活しやすい世界が実現したとき、CUDという言葉は意味を成さなくなるはずです。

 最後に色覚特性を持っている人へ。聖パウロの言葉に「暗いと不平を言うよりも、すすんで明かりをつけましょう」とあります。行動に移すことは怖いこともたくさんあります。不安もあると思います。しかし、言わないと気付いてもらえず、解決できないのです。せっかく色覚特性を持って生まれたのですから、もっと知り、もっと楽しみ、もっと生かしてください。キラキラした世界を楽しみましょう。(了)

 〔お断り〕この連載では、文章の趣旨を的確に伝えるため、現在は使用を控えるようになった「色盲」「色弱」という言葉を必要に応じて用いています。

 長瀬 裕紀(ながせ・ゆうき) 1級眼鏡作製技能士。過去に量販眼鏡店に就職するも勉強不足を痛感。修行のため眼科コメディカルとして10年弱勤め、年間3500人以上の目のケアに携わる。認定眼鏡士SS級のプロとして現在は吉祥寺の眼鏡店(グラストリーイカラ https://www.g-ikara.jp/)で勤務し、2022年度から始まった国家資格「眼鏡作製技能士」の試験に合格した。自身の体験談を踏まえた色覚特性のブログが人気を博し、数多くの問い合わせや相談が寄せられている。

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