内因性感染症と日和見感染症

 人体には至るところにさまざまな微生物が棲息していますが、そのなかでもっともよく研究されているのが細菌です。常在細菌叢(そう)といい、人種、食事、性別、健康状態などによって変化がみられます。たとえば口腔(こうくう)、咽頭から肺の気道に障害のないときは、気道の常在細菌叢の主要菌種はレンサ球菌属とナイセリア属です。
 しかし、慢性気管支炎や汎発性細気管支炎の気道にはインフルエンザ菌や肺炎桿菌(かんきん)などが常在し、なんらかのきっかけで急性増悪(ぞうあく)の原因菌となります。
 この場合は、あらたに菌が侵入したのではなく、常在している菌が急性増悪の原因となるため「内因性感染」と呼ばれます。また、長期臥床患者や血液疾患患者の気道にも、肺炎桿菌やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、緑膿菌(りょくのうきん)が常在し、これらの細菌で肺炎敗血症を発症した場合も、もちろん内因性感染症です。
 これらの菌種は多くの場合、健康人には害を及ぼさず、なんらかの基礎疾患を有する患者に対してのみ病原性を示すため、日和見(ひよりみ)感染菌ともいいます。日和見感染菌として真菌(カビ)がしばしばあげられますが、一般細菌による日和見感染症のほうが圧倒的に多いものです。
 内因性感染の反対語は外因性感染であり、急性感染症の起因菌の多くがこれにあたると考えてさしつかえありません。

(執筆・監修:熊本大学大学院生命科学研究部 客員教授/東京医科大学微生物学分野 兼任教授 岩田 敏)
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