慢性創傷(難治性潰瘍) の治療

 慢性創傷(難治性潰瘍)では壊死組織(えしそしき)、感染、血管の異常など、創傷を治りにくくする原因があります。これらの原因を改善しない限り、植皮術などの手術をおこなっても創傷は治りません。このため、慢性創傷の治療では、原因の改善と創傷の治療を組み合わせておこないます。

1 原因の改善
 慢性創傷では治癒を障害する原因があるため、これを改善させることが必要です。
①局所治療
 壊死組織や感染がある場合には、洗浄、外科的切除(デブリードマン)、軟膏などの外用薬、抗生物質の全身投与などを組み合わせて治療します。

 浸出液が多い場合は吸湿性の高い被覆材を用います。局所陰圧閉鎖療法は特殊な被覆材を創傷に貼り付け、持続的に浸出液を吸引する治療法です。

②全身的治療
 慢性創傷の患者さんでは栄養状態が低下していることが多いため、適切な栄養管理が必要です。
 糖尿病性足潰瘍の患者さんは、糖尿病の治療をきちんとおこなうように指導します。
③血管に対する治療
 血行に異常がある場合は血管に対する治療をおこないます。動脈性潰瘍では血管バイパス手術やカテーテル治療などによって、動脈血流の改善をはかります。静脈性潰瘍ではストリッピングや血管内レーザー治療によって、静脈瘤など異常な静脈を除去します。

2 創傷治癒の促進
 壊死組織、感染、血行の異常などがある程度改善された時点で、治癒を促進する治療をおこないます。組織再生をうながす軟膏や局所陰圧閉鎖療法によって、血行の良好な組織(肉芽:にくげ)を再生します。
 血行の良好な肉芽組織が再生されたのちに、植皮術や皮弁による創傷の閉鎖をおこないます。


3 切断術(下肢の難治性潰瘍)
 下肢の難治性潰瘍で組織の壊死や感染がひどい場合は、足ゆび、足部、下腿などの切断術をおこないます。

4 補助療法
 慢性創傷を生じる患者さんは、創傷を治りにくくする原因があるため、再発を予防するためのケアをおこなう必要があります。
 褥瘡の患者さんは、約2時間おきに体位変換をおこない、患部に体重が集中しないようにします。体圧分散のためのマットやクッションなども有効です。
 下肢の慢性創傷では、治療後に足の形が変形することがあります。変形した状態のまま普通の靴を使用していると、靴ずれから潰瘍の再発を起こすことがあります。このため、治療後の足の形に合わせた、インソール(中敷き)や義足などの装具を用いることが重要です。

【参照】内分泌・代謝異常の病気[糖尿病・肥満など]:糖尿病性壊疽

(執筆・監修:埼玉医科大学 教授〔形成外科・美容外科〕 時岡 一幸)