学校法人 順天堂
~高齢者を対象とした文京ヘルススタディーで明らかに~
順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の内藤仁嗣 大学院生、加賀英義 准教授、スポートロジーセンターの田村好史 センター長補佐/先任准教授、河盛隆造 センター長/特任教授、綿田裕孝 副センター長/主任教授らの研究グループは、文京区在住の高齢者1,438名を対象とした横断研究により、内臓脂肪(*1)蓄積が高齢期の糖代謝異常に強く関連する因子であることを明らかにしました。
高齢化に伴い、糖尿病発症率が増加している中、65歳以上の高齢期における加齢の糖代謝への影響、そしてその重要な関連因子についての知見が不足していました。本研究の結果は、高齢期においても内臓脂肪蓄積が糖尿病発症に関連する可能性を示しており、これは予防医学の観点からも極めて有益な情報であると考えます。
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本研究成果のポイント
東京都文京区在住の高齢者1,438名を対象とした横断研究を実施。
高齢期では加齢に伴い、インスリン抵抗性(*2)が増加、膵β細胞機能(*3)が低下していることを明らかにした。
インスリン抵抗性や膵β細胞機能低下に、内臓脂肪蓄積や遊離脂肪酸(*4)が最も関連していることを明らかにした。
■背景
超高齢社会を迎えた我が国では、新規に診断される糖尿病や境界型糖尿病の発症率が増加しています。耐糖能悪化の原因として、高齢者(60才以上)においては若年者(20~39才)と比較して、インスリン分泌能の低下とインスリン抵抗性の増加が示されています。しかしながら、これらの研究は高齢者と若年者を比較したものであり、65歳以上の高齢期でも加齢により、さらにこの病態が増悪するのか、そうであればその重要な因子は何か、ということはわかっていませんでした。そこで、本研究では、文京区在住の高齢者を対象とした調査研究 「Bunkyo Health Study(文京ヘルススタディー)(*5)」において、65歳以上の日本人高齢者の加齢による糖代謝への影響とその重要な因子を調査しました。
■内容
本研究では、東京都文京区在住高齢者のコホート研究“Bunkyo Health Study”に参加した65~84歳の糖尿病既往がなく、糖尿病の診断に用いられる検査である75g経口糖負荷検査(OGTT)のデータが揃っている1,438名を対象としました。対象者全員に二重エネルギーX線吸収測定法(DEXA)法(*6)による体組成検査、MRIによる内臓・皮下脂肪面積の測定、採血・採尿検査、75gOGTT、生活習慣に関連する各種アンケートを行い、5歳ごとに4群(65~69歳、70~74歳、75~79歳、80~84歳)に分け各種パラメータを比較しました。
その結果、年齢層で分けた4群比較により、高齢群ほど、正常耐糖能者の割合は低下し、新規に診断された糖尿病の割合が増加しました。(図1)
食後初期のインスリン分泌を示す指標であるInsulinogenic indexや、血糖値に対するインスリン分泌指標である75gOGTT中のインスリン曲線下面積/血糖曲線下面積は各年齢群間で同等でしたが、インスリン感受性指標(Matsuda index)、膵β細胞機能の指標(Disposition index)は加齢とともに有意に低くなりました。(図2)
Matsuda indexやDisposition indexの規定因子を明らかにするため、重回帰分析(*7)を施行したところ、Matsuda indexには内臓脂肪面積、Disposition indexには遊離脂肪酸が独立した最大寄与因子であることが明らかになりました。(図3)
■今後の展開
本研究により、65歳以上の高齢者における加齢の糖代謝への影響とその重要な関連因子が明らかになりました。
内臓脂肪蓄積や遊離脂肪酸がインスリン抵抗性や膵β細胞機能低下と関連しており、これは高齢者においても適切な食事や運動により体組成を改善させることで、耐糖能悪化を防ぐ効果的なアプローチになる可能性を示唆しています。
高齢期における新規糖尿病の発症は増加しており、特に高齢化率の高い日本では喫緊の課題です。文京区在住高齢者コホート研究である 「Bunkyo Health Study(文京ヘルススタディー)は今後10年間の観察研究を続け、各個人のインスリン分泌能やインスリン感受性の変化を追跡し、これらの要因を詳細に調査していく予定です。この継続的な研究により、将来の健康戦略や予防プログラムを提供することを目指していきます。
■用語解説
*1 内臓脂肪:身体の内部に位置する脂肪組織であり、主に腹部の周りの臓器(肝臓、胃、腸、膵臓など)に存在します。内臓脂肪は、健康リスクの指標として注目されており、2型糖尿病や心血管疾患などの発症リスクと結びついています。
*2 インスリン抵抗性:体内のインスリンの働きが低下する状態です。インスリンは血糖を細胞に取り込む指示を与えますが、抵抗性が生じるとこの働きが悪くなり、血糖値が上がりやすくなります。
*3 膵β細胞機能:膵β細胞は体内のインスリンを作り出す役割を果たす特別な細胞です。膵β細胞機能とは、これらの細胞がインスリンを分泌し、血糖値を調整する能力を指します。
*4 遊離脂肪酸:脂肪組織から放出された脂肪酸で、エネルギー供給源として機能します。過剰な遊離脂肪酸はインスリンの効きを悪くさせ、代謝異常を促進する可能性があります。
*5 Bunkyo Health Study (文京ヘルススタディー):順天堂大学大学院医学研究科 スポートロジーセンターで行われている、東京都文京区在住の1,629名の高齢者を対象として、認知機能・運動機能などが「いつから」「どのような人が」「なぜ」低下するのか、「どのように」早期の発見・予防が可能となるか、などを明らかにする研究です。(参照:
https://research-center.juntendo.ac.jp/sportology/research/bunkyo/)
*6 DXA法:(二重エネルギーX線吸収測定法): 2種類の微量なX線を利用して透過率の違いから体組成を測定する方法です。
*7 重回帰分析:2つ以上の独立変数が従属変数に与える影響度合いを分析する手法です。
■原著論文
本研究成果は「Journal of the Endocrine Society 」のオンライン版(2023年12月20日付 )で公開されました。
英文タイトル: Fat Accumulation and Elevated Free Fatty Acid are Associated with Age-Related Glucose Intolerance: Bunkyo Health Study
タイトル(日本語訳): 脂肪蓄積や遊離脂肪酸の増加は加齢に伴う糖代謝異常と関連する:文京ヘルススタディー
著者: Hitoshi Naito ¹, Hideyoshi Kaga 1, Yuki Someya ², Hiroki Tabata 2, Saori Kakehi 2, Tsubasa Tajima ¹, Naoaki Ito ¹, Nozomu Yamasaki 1, Motonori Sato 1, Satoshi Kadowaki 1, Daisuke Sugimoto 1, Yuya Nishida ¹, Ryuzo Kawamori 1,2, Hirotaka Watada 1,2, Yoshifumi Tamura 1,2
著者(日本語表記): 内藤仁嗣 1) 、加賀英義 1) 、染谷由希 2) 、田端宏樹 2) 、筧佐織 2) 、田島翼 1) 、伊藤直顕 1) 、山崎望 1) 、佐藤元律 1) 、門脇聡 1) 、杉本大介 1) 、西田友哉 1) 、河盛隆造 1) 2) 、綿田裕孝 1) 2) 、田村好史 1) 2)
著者所属: 1).順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学、 2) .スポートロジーセンター
DOI:
http://doi.org/10.1210/jendso/bvad164
本研究は、文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業/S1411006、JSPS科研費/18H03184、ミズノスポーツ振興財団、三井生命厚生財団の研究助成を受け実施しました。
また、本研究に協力頂きました参加者様のご厚意に深謝いたします。
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(2024/02/06 11:00)
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