医学部トップインタビュー

日本の地域医療をリード
実践の中で医師を育てる―山形大学医学部

 山形大学医学部は新設医大第一期校として1973年に創設された。開学当初は全国でも人口当たり医師数が少ない地域だったが、地域医療に貢献する医師を輩出し、医師不足を解消。スチューデントドクターをはじめとした新しい教育システムの開発に精力的に取り組み、全国の医学教育をけん引してきた。山下英俊医学部長は「地域医療は、誰かが犠牲を払うのではなく、みんなが協力して支えていくシステムをつくることが大切。生涯を通して勉強し、発展していかれる医師を育てるために、学生たちが誇りを持てる大学であり続けたい」という大学の戦略の狙いと心意気を語る。

 ◇スチューデントドクター発祥

 インタビューに応じる山下英俊医学部長

 山形大学医学部は、地域に貢献する医師を育成するために新しい教育システムを次々と開発してきた。前医学部長の嘉山孝正医学部参与(国立がん研究センター名誉総長)が2009年に創設したスチューデントドクター制度はその一つ。医学部の学生も診療チームの中に入って現場で学ぶシステムは、山形大学が発祥で、全国の医学部で次々と導入されている。

 「それまでの医学教育は国家試験対策のための座学が中心で、実習も見学型が多かった。しかし、それでは実践ですぐに役に立たない。医学部卒業の時点で医師として最低限の能力である救急対応ができるようにしておけば、将来どんな科に進んでも一生の宝になる」と山下医学部長。

 医学部卒業後に行う初期臨床研修の内容を前倒ししたような形だが、病院実習の充実は、医学教育プログラムを国際基準で審査する「医学教育分野別認証評価」を受審する際の条件でもある。早くから現場主義の教育カリキュラムにシフトしていた山形大学医学部は、時代の流れを先読みしていたといえる。

 座学の講義も、診療科ごとに区切るのではなく、講座横断的な講義を増やすよう心掛けているという。

 「歴史を学ぶときに、日本史と世界史を別々にやったら、同じ時代に他の国で何があったのかがつながらないのと同じ。解剖、生化学、薬理、病理を別々に学ぶだけでなく、例えば、発熱という症状から想定できる病気を考え、鑑別診断をしていく。医師が日常診療の中で行っているのと同じことを、講義の中にも取り入れています」

 ◇一人の犠牲ではなく

 山形大学医学部付属病院(山形大学提供)

 「地域医療は滅私奉公のイメージでやると、みんながつらくなる。ネットワークの中で支え合っていくシステムが必要です」と山下医学部長。

 学生のうちに、「地域医療は医者が我慢をする医療ではない」という支え合いの存在を実感してもらうため、当時医学部付属病院長だった嘉山前医学部長が地元の蔵王連峰の名前を冠した「蔵王協議会」を創設。大学、関連病院、行政、医師会、歯科医師・看護師・薬剤師・助産師の各団体など、地域医療に関わるすべての役割が協力して支える仕組みを作った。医師は、地域のどんな医療施設にいても、このネットワークの中で必要なコミュニケーションを取り、難しい症例に直面したときには、いつでもフィードバックがもらえる。

 「地域の小規模な医療施設に行くと、忘れ去られてしまい、孤軍奮闘しなければならないというマイナスのイメージを払拭(ふっしょく)したい。みんなで支え合って、常に最先端の知識や技術に触れながら、地域に貢献できることを、学生のうちから感じてもらえたらと思います」

  • 1
  • 2

医学部トップインタビュー