2024/11/06 05:00
病気の体験談は参考にすべきか
注意したい二つのこと
SNSやブログなどで、病院で体験した出来事を紹介する投稿をよく見ます。誰かの役に立ちたい、という善意からの投稿もありますが、中には望み通りの治療や検査が受けられず、不満を広めたい、というケースもあります。こうした投稿に出合った時は安易に拡散せず、慎重に扱わねばなりません。
なぜなら、「病院で体験したこと」を適切に解釈し、それを情報の受け手にデメリットを与えないよう正確に発信するのは極めて難しいからです。
「手術してもらえないの?」
◇拡散しやすい不満や怒り
そもそもこうした体験談は、患者さんの症状や受診までの経過、医師が診察して得られた所見や検査の結果などと一緒に伝えて初めて医学的に必要十分な「情報」になります。そのくらい、医療行為というのはケース・バイ・ケースです。
分かりやすい例を挙げてみます。
「大腸がんだと診断されたのに、医師に手術してもらえないので困っている!」という投稿があったとします。
これに対して、
「手術してもらえないなんて気の毒だ!」
「大腸がんは手術すれば治ることもあるのに残念だ!」
「私は手術してくれる病院をがんばって探して、ようやく手術してもらえた!」
といった共感と励ましの声が寄せられている。そんな状況を見ることがあります。
SNSでは、特にこうした不満や怒りは拡散しやすく、医療に対して同様の不信感を抱いた経験のある人が同調しているケースもよくあります。
ちょっと待って! SNSの情報だけで、安易に医療への怒りを拡散させないで
◇「ほぼ何も情報がない」
医師がこうした投稿を見ると、まずこう考えます。
「大腸がんとおっしゃっているが、大腸のどの部位にできたどんなタイプの大腸がんなのだろうか」
「深達度はどうだろうか」
「リンパ節転移はどうだろうか」
「遠隔転移はあるのだろうか」
「遠隔転移があるとしたらどの臓器に何カ所転移していて、それらはどんな大きさなのだろうか」
「何より、この投稿者は一体何歳で、どんな既往のある、どんな内服歴のある、どんな社会的背景を持つ方なのだろうか」
つまり、医学的に何らかの判断を下すには「ほぼ何も情報がない」と言うに等しく、それに対して「手術してもらえない」という事実が何を意味するのか、全く理解できないのです。
ちなみに、大腸がんは手術ではなく抗がん剤治療を行うべきケースもあるため、手術をしないのが妥当、というケースも当然あります。
◇理想的な付き合い方
いずれにしても、この投稿に対して不満も怒りも感じませんし、怒りの標的になっている医師に対して何らかの感情を抱くこともありません。とにかく「何も分からない」だけです。
むろん、こうした投稿に至ってしまう背景には、医師からの説明不足や、医師とのコミュニケーションエラーがあったに違いありません。その点で、投稿者の行為を否定することはできません。
むしろ、非難されるべきは誤解を招いた医師の方かもしれず、その点で医師として反省すべきこともあるでしょう。
しかし、何も知らない第三者がこうした情報の拡散に加担し、医療不信を助長するのは、実際に病院を利用する多くの患者さんにとってメリットになりません。情報の発信者と同じ怒りや不満の感情を抱いたとしても、情報が全く不足している以上、いったん判断は保留にする、というのが、SNSで得た情報との理想的な付き合い方ではないでしょうか。 (医師・山本健人)
(2020/04/15 07:00)
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