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私を含め多くの医師は診療するかたわら、さまざまな研究活動も行っています。「研究」と聞くと、実験室で試験管やネズミを使って行う「基礎研究」を想像されるかもしれませんが、それだけが研究ではありません。臨床現場で行われる「臨床研究」もたくさんあります。
研究結果を論文という形で発表するには
◇臨床研究
例えば、新型コロナウイルス感染症にかかった患者さん1000人のデータを基に「どんな年齢分布なのか」とか、「どんな特徴を持つ人が重症化しやすいか」といった知見を得るのは臨床研究です。
がんの新しい薬と既存の薬の効き目を比べるため、それぞれを200人に投与してその結果を比較する、というような臨床研究もあります。これで良い結果が得られれば、新しい薬が承認されるきっかけになります。
言うまでもありませんが、これらは患者さんの同意を得て、患者さんからのご協力の下に行われます。また、研究が行われる施設で倫理委員会が開かれ、その合議で倫理的な妥当性が認められない限り、実施できません。医学に関わる研究というのは、このような厳しい条件のもとで行われています。
◇広く知ってもらいたい
さて、さらに厳しいのが、この研究結果の取り扱いです。研究の結果を広く知ってもらいたい、と思ったら、何をすればいいでしょうか?
今の時代、独自に行った研究でも、多くの人に知ってもらう方法はたくさんあります。例えば、SNSでフォロワーが多い人なら、SNSを使って拡散を試みるかもしれません。ブログに書く人もいるでしょう。マスコミ関係者とつながりがあれば、新聞やテレビなどで取り上げてもらう方法もあるかもしれません。
◇第三者の審査
では、その研究結果の確かさは、誰が保証するのでしょうか?本人が「正しい」と言い切れば、等しく正しいのでしょうか?
もちろん、そんなことはありません。そこで大切な機能を果たすのが、論文の「査読」という仕組みです。一般的に、論文として世に発表しようと思えば「査読」と呼ばれる第三者の審査をパスする必要があるからです。
研究結果の信頼性は、同じ領域の専門家で、かつ自分や自分の属するグループと利害関係のない複数の人が確認して初めて認められます。夏休みの自由研究をブログで公開するのとは訳が違うのです。
◇確かさの検証
もちろん、論文で発表されているからといって、それが必ずしも正しいとは限りません。世の中には膨大な数の論文があります。「ハイインパクトジャーナル」と呼ばれる、掲載の難しい権威ある雑誌もあれば、そうでないものもあります。中には、質の高くない論文も多くあるでしょう(自分の論文を棚に上げて書いています)。
しかし、査読をパスして論文にすることで、少なくとも「科学的な手順が踏まれた形跡」を世に示すことはできます。その確かさを読者が科学的に検証することも可能になるのです。
世の中には、たくさんの研究結果があります。しかし、「査読を経た論文として発表された研究結果」なのか、まだ査読を経ていないものなのか、あるいは「論文ですらない専門家個人の意見」なのか。この違いは、実はとても大きいのです。(外科医・山本健人)
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