2024/11/06 05:00
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兵庫県知事選を背景に、SNSとテレビにおける情報の扱い方が関心を集めています。
「SNSの情報は偏りがあるため注意が必要である。一方、テレビは不確かな情報が発信されにくいため信用できる」といった意見も見受けられますが、果たして本当でしょうか?
医療情報を収集する患者さんの立場から見ると、どの情報ソースにも一定の注意が必要と感じます。
医療情報はさまざまな媒体から得て検討しよう
◇テレビの注意点
これまで私は医師として、テレビでたびたび放送される、専門知識を持たないコメンテーターや芸能人、文化人の言葉の影響力、説得力を強く感じてきました。
これらの個人の意見が科学的根拠に基づいたものではなく、主観的な解釈や感情に偏ることも少なくありません。
こうした意見に惑わされ、悩まされる患者さんを目の当たりにしてきた立場としては、「テレビの情報が確からしい」という意見にくみすることはできません。
とはいえ、事前の検証を経た上で発信される以上、テレビの方がSNSより信頼性の高い情報が多いという考えには一理あるでしょう。
放送前に情報の裏取りを行い、専門家の監修を受けてから発信されるテレビの情報と比べ、真偽不明の情報が混然一体となったSNSの危険性が高いことは言うまでもありません。
◇SNSの注意点
SNSの最大の特徴は、偏りなく多様な情報を短時間で広く集められることです。
テレビのように編集されていない、生の情報や専門家個人の発信に直接触れられます。
情報が手元に届くスピードも速く、SNSで話題になったことが数日後にテレビで報道されるという事例もしばしば目にします。
一方、SNSの情報はユーザーの好みにパーソナライズされています。知らず知らずのうちに偏った情報ばかりを受け取り、自分に都合の良い情報だけを信じ込む危険性に敏感でなければなりません。
同じ考えを持つ人の意見ばかりに囲まれ、自分の思想が肯定され続けると、あたかもそれが世論そのものであるかのように錯覚することを「エコーチェンバー現象」といいます。
一度陥るとなかなか抜け出せない、恐ろしい落とし穴です。
◇大事な情報リテラシー
テレビもSNSも、それぞれにメリットとデメリットがあり、どちらが「正しい」「間違い」というわけではありません。
いずれの情報もうのみにすることなく、さまざまな媒体から幅広く情報を集め、比較検討することが大切です。
余談ですが、私が小中学校へ講演に行くと、「テレビも新聞もネットもSNSも、どれが正しくてどれが間違いなどというものではなく、それぞれからバランス良く情報収集し、比較検討して自分の頭で考えないといけないと思います」という感想が普通に出ることに驚かされます。
インターネットネイティブの最近の児童・生徒は、学校で情報リテラシーについてきちんと学んでいるのです。
これから改めて学ばねばならないのは、私たち大人の方かもしれません。(了)
山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、感染症専門医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、累計1200万PV超を記録。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書「すばらしい人体」「すばらしい医学」(ダイヤモンド社)はシリーズ累計23万部。「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「患者の心得」(時事通信)ほか著書多数。
(2024/12/04 05:00)
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