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食物アレルギー診断に新検査法
~成育センター・東大グループが臨床研究~

 食物アレルギーは約20年、増え続けており、世界的に社会問題となっている。特にこの10年ほどは、医療関係者や保護者らが子どもの食物アレルギーを警戒する必要が出てきた。この病気はアナフィラキシーという全身性のアレルギー反応を引き起こし、時に命の危機を招きかねないからだ。患者への負担がなく、より安全に行うことができる検査法が発見され、関係者の期待を集めている。

 ◇子どもの患者に負担

大矢幸弘センター長

 国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)アレルギーセンターの大矢幸弘センター長は「0~1歳の乳幼児の食物アレルギーの原因(アレルゲン)としては、卵、牛乳、小麦が3大アレルゲンだ。他にも、ピーナツやエビ、バナナなども挙げられる」と話す。

 「母乳やミルクから離乳食に切り替わってから、保護者は子どもが食物アレルギーではないかと気付くことが多い」。そこで、同センターなどの医療機関を受診することになるが、子どもの患者の場合には、検査や治療法が負担になる。

 食物アレルギーがあるかどうかを確かめるには、「食物経口負荷試験」が必要だ。治療法は少量の食物そのものを食べ続ける 「経口免疫療法」がある。食物経口負荷試験では、アナフィラキシーのリスクを伴う。心理的影響でアレルギーの症状が出ることもあり、軽微な症状の場合は判定が難しい場合があるという。

 ◇尿中の物質に注目

 大矢センター長と東京大学大学院農学生命科学研究科の村田幸久准教授らのグループは、食物アレルギーの患者の体に負担が生じることがない上に、軽微なアレルギー症状を判別できる検査法の臨床研究に取り組んだ。注目したのが、尿中に放出される「プロスタグランジン D2」という物質の代謝物(PGDM)だ。

 食物アレルギーは、食物に含まれているアレルゲンに対してアレルギー反応が起きる疾患だ。ウイルスや細菌、アレルゲンなどが体内に入って来ると、「IgE抗体」というタンパク質が作られ、「マスト細胞」に付着する。アレルゲンが再度、侵入しIgE抗体に結合すると、マスト細胞からアレルギー症状を引き起こす化学物質が放出される。例えば、激しいかゆみをもたらすヒスタミンが、これに該当する。

 トリプターゼという化学物質も放出されアレルギー反応の目安になるが、採血をしないと検出できない。しかも2時間くらいで半減するので、検査をするタイミングが重要だ。「研究という面では意味があるとしても、臨床では少し無理がある」。大矢幸弘センター長はこう話す。採血検査は成人にとっても、嫌なものだ。まして子どもにとってはハードルが高く、検査を受けさせる医師や保護者も苦労する。

 一方、尿中に含まれるPGDMはアレルゲンの食物を摂取してから2~4時間、測定できる。大矢センター長は「どんな子どもでも、このくらいの時間でおしっこをしたくなるだろう。だから、尿中にあるPGDMをちょうど良いタイミングで測定できる」と言う。

子どもを診察中の大矢センター長

 ◇治療効果の判定にも有効

 尿を用いた検査法には、もう一つ利点がある。

 治療法は、アレルゲンを摂取しながら過敏性を減少させる経口免疫療法だ。この治療がうまくいくと、「脱感作(だつかんさ)」と言って食物アレルギーを克服し、治癒一歩手前の状態になる。ただ、この脱感作の状態を獲得できたかどうかを判定するためには、食物経口負荷試験を行いアレルギー反応を起こすか起こさないかを確かめる必要があり、アナフィラキシーが出現するリスクがある。しかし、経口免疫療法を行っている患者の脱感作がうまくいっている場合は、自宅で治療中の尿中PGDMの値が低いことが分かったのだ。

 大矢センター長は「私たちの施設や多くの医療機関では、検査に慎重を期している。ただ、この経口負荷試験を行っているどの医療施設でも、アナフィラキシーは起きるものだ」と話す。尿中のPGDMを測定すれば、負荷試験を行わずに治療の効果を評価することができ、患者にとってのメリットは大きい。

 ◇簡便な検査キット登場へ

 食物アレルギーの子どもを持つ保護者は「ここまではぎりぎり食べさせてもいいかな」と苦労しつつ、与える食事に苦労している。「ここまではOK、これ以上は危険」という指標を示すツールがあれば、心強い。

 大矢センター長によれば、家庭でも使える簡便な検査キットが近く登場する見通しだという。医療機関にとっても、現在使用している質量分析計は、一千万円単位の費用が掛かる。新たな検査法は、家庭でも、医療機関でも、子どものアレルギー対策の進歩に寄与するとみられる。(了)

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