治療・予防

食物のアレルギーで死亡も
~危険なアナフィラキシー~

 激しいアレルギー反応が短時間で全身に表れるのが、「アナフィラキシー」だ。この急性アレルギーで死亡する事例が例年、報告されている。食物を原因とするアナフィラキシーでは、アレルゲンに接してから死亡するまでの時間が30分程度とするデータもある。小さな子どもがいる親にとっては、特に注意が必要だ。

原因食物のトップは鶏卵

原因食物のトップは鶏卵

 ◇9年間で3.4倍に

 昭和大学医学部の今井孝成教授(小児科学講座)によると、食物アレルギーは乳幼児、小児が圧倒的に多く、小学校に入学するまでの年齢が約8割を占める。

 学校における健康管理に関する日本学校保護会の調査によると、食物アレルギーがある児童・生徒は2004年度の2.6%から13年度は4.5%に上昇。アナフィラキシーは0.14%から0.48%に増えた。

今井孝成教授

今井孝成教授

 食物アレルギー、原因1位は鶏卵

 すぐに反応が表れる即時型食物アレルギーの原因となるのは、鶏卵が34.7%と最も多く、次いで牛乳22.0%、小麦10.6%となっている。木の実類(8.2%)ではクルミやカシューナッツ、果物類(4.5%)ではキウイやバナナが多い。原因食物の年齢別トップを見ると、「0歳」と「1、2歳」では鶏卵、「3~6歳」で木の実類、「7~17歳」が果物類となっている。

 症状にはどんなものがあるのか。皮膚症状が86.6%と9割近くを占める。次いで呼吸器症状38.0%、粘膜症状28.1%、消化器症状27.1%―の順だ。

 今井教授は「第1位の皮膚症状は軽いじんましんから、重くなると全身に症状が表れるものまでさまざまだ」と話す。呼吸器症状については「ひどくなると、ゼエ、ゼエ、ヒュー、ヒューするようになる」と言う。ショック症状は10.8%だが、重篤なケースでは命に関わることもある。

 ◇毎年40~70人が死亡

 アナフィラキシーは食物やワクチンを含む薬物、ハチの毒などのアレルゲンが原因で起きるアレルギー反応だ。反応はアレルゲンに接してから2時間以内に出る。皮膚や呼吸器、消化器など複数の臓器に及び、全身に強い症状が表れる。時に、血圧低下や意識障害などの「アナフィラキシー・ショック」を引き起こす。

 今井教授によると、アナフィラキシー・ショックは年間5000~6000人に上り、毎年40~70人の死亡例が報告されている。2019年は62人だった。

 危険なのは、アナフィラキシーを発現してから心停止に至るまでの時間が短いことだ。海外のデータによると、アレルゲンが食物の場合は約30分、ハチの毒で約15分、薬剤では約5分となっている。一方、総務省の17年の資料によると、119番通報から病院に搬送されるまでの時間は、全国平均で39.3分。この三つのアナフィラキシーでは、救命措置が間に合わない計算だ。

アナフィラキシー発現から心停止までの時間

アナフィラキシー発現から心停止までの時間

 ◇コロナで受診控える

 新型コロナウイルスの影響はどうか。食物アレルギーがあり、幼稚園・保育所、小学校に通う子どもの保護者100人に聞いたところ、感染症対策に追われる小学校や保育所などで食物アレルギー・アナフィラキシーへの対応に不安を感じている人が36%いた。コロナの流行以降の受診状況については、29%が「受診しなくなった」と回答、「頻度が減った」は10%だった。理由としては「感染リスクが心配」3割超と、最も多かった。

 今井教授は「病院に来たからコロナに感染する、ということはない。定期的に診察する必要がある子どもは、ぜひ受診してほしい」と言う。その上で「ストレスを抱えて病院に来る子どもが増えている。程度にもよるが、ストレスはアレルギー性疾患を誘発しやすい」と付け加える。

長谷川理恵さん

長谷川理恵さん

 ◇正しい情報を得よう

 アナフィラキシーに関するセミナーに出席したモデルの長谷川理恵さんの子どもは、1歳の時に卵と牛乳が原因でアレルギー性疾患を発症した。現在は8歳になる元気な男の子で、主なアレルゲンはクルミに変わったという。

 アレルギーの子どもを持つ「ママ友」たちはネットで情報を拾い、自分の子どもと比べて「こうだ」と話し合う。しかし、ネットの情報がすべて正しいとは限らない。長谷川さんは「もしものときに備えて、正しい情報を得ることができるような知識を持ってほしい」と話す。

 ◇第1選択肢はアドレナリン

 日本アレルギー学会のアナフィラキシー・ガイドラインは、薬剤による治療の第1選択肢にアドレナリンを挙げている。

 今井教授は「米国やカナダでは、学校ごとにアドレナリン注射薬を置いている」と話す。長谷川さんはよくオーストラリアを訪れる。同国滞在中に子どもが友人のヨーグルトを食べてしまい、アレルギー反応が出た。現地の人の協力で事なきを得たが、「どうしてアドレナリンの注射器を持っていないのか」と責められた経験がある。「急に症状が出たときに、それを抑えることができるので、家庭に備えた方が安心できる」

 今井教授は、アナフィラキシーで治療した子どもたちにアドレナリン注射の感想を尋ねた。「注射は痛いけれど、アナフィラキシーの方がつらい。早く打ってほしい」などの声が返ってきたという。(鈴木豊)

【関連記事】


新着トピックス