話題 2024/12/19 05:00
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流産や死産を繰り返す「不育症」。
検査費用の国による助成制度が創設され、2021年度から実施されているが、当事者以外が不育症のことを知っているとは言い難い状況が続いている。悩む人は多く、妊娠の高年齢化によって増えているとも言われている。30年以上前から不育症の専門診療と研究に携わる山王病院の藤井知行病院長に現状と課題を聞いた。
山王病院・藤井知行病院長
―不育症とはあまり聞き慣れませんが?
不育症の定義は「流産・死産の経験が2回以上ある」ことで、すでに子どもさんがいらっしゃる場合も含まれます。以前は習慣流産とも言われていました。
―どのくらいの人が不育症なのでしょうか?
日本では、妊娠歴のある女性の5%弱という10年以上前の調査結果がありますが、妊娠の高年齢化によって流産が増えていることを考えると、現在はさらに多いとも考えられます。ただし、そもそも妊娠の1~2割は流産になりますから、不育症は決して珍しいことではないのです。
―そんなに多いのですね。
流産の9割は妊娠12週未満(いわゆる安定期は妊娠16週)に起こるため、職場などでは妊娠した人が身近にいても、それすら知らない可能性が高いでしょう。しかも、流産の経験のある人は、妊娠しても再び流産するかもしれないという不安で周囲に打ち明けないことが多いので、周囲の人が不育症についても知る機会は少ないのではないでしょうか。
―職場では流産したことがある人がいる前提で、言動に留意したほうがよいですね。
はい。それと同時に流産を知り得た場合の対応についても注意していただきたいです。流産については誤解が多く、悲しみを抱える当事者がさらに傷つけられるケースが少なくありません。
―どのような誤解でしょうか?
例えば、流産が妊婦の行動によって引き起こされたという誤解です。よほどのことがない限り、流産との関係はありません。それなのに、「無理をしたから」「次は大事にしていれば大丈夫」などと、妊娠中の行動に問題があったかのように言われることが多いのです。
―では、流産はなぜ起こるのでしょうか?
大部分は胎児(受精卵)の染色体異常で、これは誰にでも起こり得ることです。流産が2回以上の不育症の場合には検査を勧められますが、その中の助成制度の対象となっている先進医療の検査(流産検体を用いた染色体検査)でわかります。これは流産の手術の際に胎盤の組織を調べる検査で、自宅などで流産した際には行えないなどの条件はありますが、今後の検査・治療方針を確認できる重要なものです。
―不育症では他にどのような検査がありますか?
不育症のリスク因子である「抗リン脂質抗体症候群」を調べる検査などがあります。抗リン脂質抗体症候群は血栓ができやすくなる自己免疫疾患で、妊娠中に行う内服薬と注射による治療法があり、世界的に有効性が認められています。ただし、通常の妊娠よりも通院回数は多くなります。
―不育症でも治療によって、出産に至る場合があるのですね。
まだ全てのリスク因子が明らかになったわけではありませんが、近年では検査によって対応できることも増えてきました。
―そもそも不育症について研究されるきっかけは何だったのでしょうか?
当時は、妊娠は全てホルモンの関係で考えられていて、免疫の概念はほとんどありませんでした。不育症は妊娠と免疫の両方をテーマとしていたので興味を持ち、専門にしました。日本で不育症を専門に診療している医師は少なく、東京大学に不育症外来を開設したところ、遠方、離島からも多くの患者さんが受診されました。
―当時から変わってきたことはありますか?
世界中で研究が進められ、前述したようなリスク因子や治療法が解明されてきました。また、「流産回数が3回までなら次回の妊娠で7割は出産に至る」など、研究結果から患者さんにお伝えできる情報も増えてきました。ただし、受診される患者さんが流産のことで自分を責めている様子は30年以上経っても変わりません。
「知っておきたい不妊症・不育症ガイド」
―それだけ偏見も多いのでしょうか?
流産は妊娠したという喜びからの落差が大きく、うつ病や不安症を発症しやすいのです。そこに、励ましのつもりでも周囲からの不用意な声掛けがあると、さらに自責の念が強まってしまいます。当事者が流産から心を回復させるには、周囲が状況を正しく理解し、ケアすることが欠かせません。
―まだその必要性が一般に認識されていないのかもしれません。
当事者や医療関係者だけではなく、広く一般の人に啓発していく必要があると思います。特に職場の管理職や人事担当者には、検査や治療と仕事の両立という面でも基礎知識を理解していただきたいです。その取り組みの一つとして、今回「知っておきたい不妊症・不育症ガイド」(時事通信社から12月下旬刊行)をつくりました。2022年度から治療の保険適用化が予定されている不妊症と併せて、職場の理解にお役立ていただければと考えています。(了)
(2021/12/17 05:00)
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