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被災した子どもの心のケア
~可能な限り「いつもと一緒」心掛けて~

 2024年の元日に起きた能登半島地震。石川県では最大震度7を観測し、建物の倒壊や火災などで、死者や安否不明者が多数出ている状況だ。多くの人が家を失い、避難所生活を強いられている。一瞬にして日常が奪われ、大人でさえ不安で胸が押しつぶされそうな中、子どもたちが受けた衝撃、抱える恐怖は大きい。そんな子どもたちの心のケアについて、専門家に聞いた。

避難してきた家族

 ◇ストレス反応は当たり前

 発生からまだ日が浅い中、子どもたちにどんな変化が起きてくるのか。「災害など大変な出来事に遭遇したときには、心身が対処しようとする。これを急性ストレス反応といい、誰もが引き起こす正常な反応だ」と話すのは、国立成育医療研究センター小児内科系専門診療部・こころの診療科の田中恭子診療部長。

 例えば、いつもより落ち着きがない、多動や多弁といった行動面の変化が見られる。お漏らし、1人で寝付けない・遊べない、親から常時離れたがらないなど、「赤ちゃん返り」をすることもある。

 体の症状として出る場合もある。眠れない、食欲が湧かない、逆に食べ過ぎる、頭痛、腹痛などだ。「何かに対応しなくてはと思えば思うほど、アドレナリンが分泌して交感神経が優位になる。消化を担う腸管は、副交感神経が優位のときに活発化するため、体が興奮状態だとおなかが不調になりやすい」(田中医師)。

 ◇家族らが寄り添う

 様子や症状がつらそうであれば、休息が必要だ。「大事なのは、子どもにとって一番の心の安心安全になっている家族らが近くに寄り添い、なるべく通常通りの会話をすることだ」と田中医師は説く。それには3食をしっかり取り、朝起きて夜眠ることが重要。今は地震が起きたばかりでそれさえ難しい状況かもしれないが、可能な範囲で日常に近い生活を送ってあげてほしい。

 田中医師は「未就学児や低学年の子の場合、寝る前のおまじないなどルーティンがあれば、それをやると安心につながりやすい」と話す。

 思春期に近い子どもには、危険を伴わない何らかの役割を担ってもらうのもよい。手助けしてくれた子には「ありがとう。助かるよ」と声を掛けるのが大事だ。

 ◇遊びでつらさに対処

 片付けなどで頑張り過ぎる子もいるかもしれない。そんな様子を見かけたら、まず深呼吸を促し、休ませよう。災害と無関係の体験をする時間を設けるのも方法の一つだという。田中医師は「目の前のことに意識を向けようと注力する『マインドフルネス』を実践してみてほしい。例えば、食事の際に『温かいね』と言葉を交わすだけでもいい」とアドバイスする。

 そのうち「地震ごっこ」「津波ごっこ」などを始めるケースもあるようだ。田中医師は「子どもは、心の奥底に潜んでいるトラウマ的体験や抑圧された感情などが、言葉よりも遊びに出やすい。すぐに良い・悪いを決めつけず、様子を見てほしい。つらさを乗り越えるプレーかもしれない」と解説する。「東日本大震災で出会った子どもたちは、積み木で津波ごっこをしていたが、最終的には協力して新しい町をつくり始めた」と田中医師は振り返る。

 ◇まず大人が落ち着こう

 大人はどのように対処したらいいか。

 急性ストレス反応のような様子について、大人が特別視し過ぎると、子どもは「大人が特別なこととして見て、おびえている」と不安が増す。大人の不安やおびえを、子どもたちは敏感に感じ取るからだ。構えず接するには、まずは落ち着くことが大事だ。

 第二に、子どもが表した感情を抑圧せず、共感してほしい。寂しい、つらい、怖いといった負の感情を口にしたとしても、「そんなことないよ」ではなく「そうだね、つらいね」「私もつらいよ」などの言葉を返そう。感情の否定は、余計に感情の抑圧を引き起こす。

 災害時は、子どものネガティブな言葉に大人も脅かされることがある。その場合は一緒に深呼吸をしたり、手を握ったり、「5秒間、ぎゅーってハグしよう」といった身体的なリラクセーションなどを取り入れたりし、気分を調整したい。

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