医療行為の基本理念は"First, do no harm(何よりも患者に害をなすなかれ)"である。米・Brigham and Women's HospitalのAntoine Duclos氏らは、周術期の入院患者の安全性の実態を検討するため、米国内の11施設を対象に大規模後ろ向きコホート研究を実施。周術期に発生する有害事象の8割は回避が可能であったとBMJ(2024; 387: e080480)に報告した。
発生頻度や重症度を検討
「患者の安全を最優先する理念こそ医療の基本とされ、入院患者の有害事象発生は患者に害をもたらす最大要因である」とDuclos氏らは指摘。近年は低侵襲手術も導入されているものの、医療安全対策を重んじる方針に変わりはない。最新データによる入院患者の安全性の実態を検討することは、さらなる患者の安全対策につながるとして、今回後ろ向きコホート研究を実施した。
対象は、2018年に米国11施設に手術入院した18歳以上の6万4,121例のうち、周術期ケア関連の有害事象が発生した可能性のある施設に入院した患者について、重み付けランダムサンプリングにより1,009例(平均年齢60.9歳、女性51.4%、白人79.9%、平均入院期間6.4日)を抽出した。施設規模の内訳は100床未満が2施設、100~200床が4施設、201~500床が2施設、700床以上が3施設で、主な診療科は整形外科31.2%、心血管・胸部外科22.1%、消化器科15.4%、泌尿器科・婦人科11.8%。緩和ケア病棟やリハビリ病棟、精神科・依存治療病棟などは除外した。
まず訓練を受けた看護師9人が全ての記録をレビューし、次に医師8人が周術期治療における有害事象の発生頻度、重症度、回避の可能性を評価した。
心血管・胸部外科で最多
有害事象発生率は1,009例の38.0%(383例、95%CI 32.6〜43.4%)で1件以上認められ、治療介入や回復期間延長、生命予後に関わる重大有害事象は15.9%(160例、同12.7〜19.0%)だった。
発生件数は593件で、原因別に見ると外科手術関連が49.3%(292件)と最も多く、次いで薬物関連の26.6%(158件)、医療関連感染症の12.4%(74件)、患者ケア関連の11.2%(66件)、輸血反応の0.5%(3件)の順であった。発生場所別では、一般病室48.8%(289件)、手術室26.1%(155件)、集中治療室13.0%(77件)、その他の院内7.0%(42件)、回復室3.3%(20件)、救急病棟1.8%(11件)で認められた。有害事象への関与が最も大きかった職種は、主治医の89.5%(531件)で、次いで看護師58.9%(349件)、レジデント49.5%(294件)、上級医28.5%(169件)、フェロー11.5%(68件)の順だった。
また、診療科別に1件以上の有害事象の発生率を見たところ、整形外科/泌尿器科・婦人科の手術患者に比べて心血管・胸部外科でより高かった(図)。
図. 診療科別に見た周術期の有害事象発生率
(BMJ 2024; 387: e080480)
患者にとって周術期ケアは高リスク環境
有害事象回避の可能性を検討したところ、593件中59.5%(353件、95%CI 55.2〜63.9%)は潜在的に回避できた可能性があり、20.7%(123件、同16.6〜24.8%)は確実または高い割合で回避できたケースだった。
今回の結果から、Duclos氏らは「われわれの研究により、今なお手術における有害事象は頻繁に発生しており、かつそれらは回避できる可能性が示された。すなわち、周術期ケアが患者にとって高リスク環境であることが分かった」と結論。「継続的な努力により、患者の安全性向上に努めることが急務。病院の全ての医療従事者が安全対策に積極的に取り組むことが重要である」と述べている。
(編集部)