喘息は小児期によく見られる呼吸器疾患だが、喘息が小児の記憶に及ぼす影響は明らかでない。米・University of California, Davis のNicholas J. Christopher-Hayes氏らは、同国の多施設コホート研究Adolescent Brain Cognitive Development(ABCD)Studyのデータを分析した結果、喘息と小児の記憶障害に関連が認められ、早期に発症した児ほど重篤だったと、JAMA Netw Open2024; 7: e2442803に報告した。(関連記事「小児のアトピー+αで記憶障害リスク」)

喘息の発症が早い群はエピソード記憶力の発達度が低い

 喘息は小児期に多く見られる慢性疾患の1つで、マウスを用いた最近の研究では喘息により海馬の神経損傷やそれに伴う記憶力の低下が引き起こされることが示唆されている。しかし、喘息と小児の記憶障害との関連は明らかでない。

 そこでChristopher-Hayes氏らは、2015年に米国21施設で思春期の脳と認知発達を検討するABCD Studyに登録された9~10歳の小児1万1,800例を追跡。1年後と2年後のデータを分析し、喘息と小児の記憶低下との関連を調査した。

 参加者のうちベースラインと2年後に喘息があった児135例(平均年齢9.90歳)を早期発症群、2年後のみ喘息があった児102例(平均年齢9.88歳)を後期発症群とし、患者背景など全ての共変量をマッチングさせた喘息歴がない児237例(平均年齢9.90歳)を対照群とした。主要評価項目はエピソード記憶力、副次評価項目は処理速度、抑制・注意力とし、喘息と記憶の関連を縦断的に分析した。

 その結果、エピソード記憶力は全体的に経時的な発達が見られた(年齢の変化:β=0.28、95%CI 0.21〜0.35、P<0.001)が、対照群と比べ早期発症群ではエピソード記憶力の発達度が低かった(年齢の変化×発症の早期化:β=-0.17、同-0.28〜-0.05、P=0.01)。一方、後期発症群と対照群に差は認められなかった(年齢の変化×発症の遅延:β=-0.02、同-0.15〜0.10、P=0.75)。

 処理速度と抑制・注意力については、エピソード記憶力と同様に処理速度(年齢の変化:β=0.39、95%CI 0.32〜0.45、P<0.001)、抑制・注意力(同β=0.29、0.21〜0.36、P<0.001)ともに経時的な発達が見られ、有意な群間差はなかった。

横断的分析では処理速度、抑制・注意力も低スコア

 次に、喘息の病歴がある児1,031例(喘息群、平均年齢11.99歳)と全ての共変量をマッチングさせた喘息のない児1,031例(対照群、同12.00歳)を対象に横断的に分析した。

 その結果、対照群と比べ喘息群はエピソード記憶力(β=-0.09、95% CI -0.18~-0.01、P=0.04)、処理速度(β=-0.13、同-0.22~-0.03、P=0.01)、抑制・注意力(β=-0.11、-0.21~-0.02、P=0.02)いずれも低かった

 以上から、Christopher-Hayes氏らは「多施設コホート研究の結果、喘息は小児の記憶障害と関連しており、喘息の発症が幼少期の早い時期であるほど記憶障害はより重篤になり、影響が実行機能にまで及ぶ可能性が示唆された」と結論している。

(医学ライター・大江円)