2024/12/06 17:18
キャラクター活用による病院内での心地よい空間づくりの取り組み
特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus: iNPH)は1965年に定義された名称だが、特発性(原因不明の)正常圧(頭蓋内圧が高くない)水頭症と言う名称は、実臨床や病態生理に即していないと国際的にも批判が大きかった。そこで、国際水頭症学会の中で組織された名称変更研究グループ(スウェーデン、イギリス、日本)が2019年に発足。システマティックレビューにより、大人の慢性水頭症の名称に関連した48の異なる名称を抽出した。発症時の年齢、症状、病態生理等に基づいて、新たに7つのグループに分類した。その中で、特発性正常圧水頭症(iNPH)の名称について協議を重ね、新たにHakim’s disease(ハキム病)に変更することを提案した。
World Neurosurgery (令和6年1月18日)
研究成果の概要
本研究は、国際水頭症学会の中で組織された名称変更研究グループ(スウェーデン、イギリス、日本)によるシステマティックレビューに基づいた研究成果である。48の異なる名称を整理して、発症時の年齢、症状、病態生理等に基づいて、1) Hakim’s disease(ハキム病)、2) Early midlife hydrocephalus、3) Late midlife hydrocephalus、4) Secondary hydrocephalus、5) Compensated hydrocephalus、6) Genetic hydrocephalus、7) Transitioned hydrocephalus
の7つの新分類を提案した。
本研究成果は、世界脳神経外科学会の機関誌であるWorld Neurosurgeryのオンライン版で2024年1月18日に掲載された。
【背景】
水頭症とは頭に水が溜まることで症状をきたす病気である。子供が罹る病気として広く認知されているが、実際には大人になってから慢性水頭症に罹患し、手術が必要となる患者の方が多い。特に、75歳前後で歩行・バランス障害、物忘れ、尿失禁の三つの症状が次第に進行し、介護が必要になる特発性正常圧水頭症(iNPH)は、高齢者人口の約1%に潜む病気であり、早期発見・治療介入が健康寿命の延伸、介護負担の軽減、社会コストの削減につながると考えられる。しかし、特発性(クモ膜下出血など先行する疾患のない原因不明の)正常圧(頭蓋内圧が高くない慢性の)水頭症という名称は、1965年に提唱されて以降定着しているものの、複雑で難解なため専門家以外には浸透しにくく、昨今の研究により病態解明が進み、ことさらに原因不明という疾患ではなく、全ての患者が正常圧とは言えない等の理由から、名称変更を求める声が国際的にも高まっていた。2019年5月に東京で、国際水頭症学会が主導するガイドライン改定に向けて第一回会合が行われ、ガイドライン改定に先立って名称を整理する必要性を認識し、名称変更研究グループが立ち上がり、システマティックレビューとWEB会議を繰り返し、4年半に及ぶ協議の末、コンセンサスを得て今回の発表となった。
【研究の成果】
水頭症の名称に関連する可能性がある4043の研究論文を抽出した後、2人以上の査読者で論文を判別し、最終的に大人の慢性水頭症の名称に関連した33論文から48の異なる名称を同定した。これらの名称を、発症時の年齢、症状、病態生理等に基づいて、新たに7つのグループに分類した。
1)Hakim’s disease(ハキム病):従来、特発性正常圧水頭症(iNPH)と呼ばれていた慢性水頭症
発症時年齢は平均75歳で、歩行・バランス障害、物忘れ、尿失禁の三つの症状が次第に進行.
2)Early midlife hydrocephalus:ハキム病と同じ症状の他に、頭痛、視野異常、めまい、失神等の症状で40代、50代に発症する慢性水頭症.脳室拡大が顕著.
3)Late midlife hydrocephalus:ハキム病と同じ症状の他に、頭痛、視野異常等の症状で60代から75歳までに発症する慢性水頭症.脳室拡大が顕著.
4)Secondary hydrocephalus:クモ膜下出血、脳腫瘍、重症頭部外傷、髄膜炎等の脳疾患に続いて発症する慢性水頭症.
5)Compensated hydrocephalus:脳室拡大が顕著にも関わらず、頭痛等の軽微な症状か、ほとんど症状をきたしていない慢性水頭症.日本の山形大学のグループが提唱したAVIM(asymptomatic ventriculomegaly with features of iNPH on MRI)もこの分類に含む.
6)Genetic hydrocephalus:家系内で慢性水頭症が複数人発症し、遺伝的要因の影響が強く示唆される、もしくは疾患関連遺伝子が同定された慢性水頭症.
7)Transitioned hydrocephalus:幼少期に水頭症と診断され、成人期に移行した慢性水頭症.
【研究のポイント】
・大人の慢性水頭症の名称に関連した48の異なる名称を整理して、7つの新分類を定義した。
・国際的にも批判が大きかった特発性正常圧水頭症(iNPH)の名称をHakim’s disease(ハキム病)に変更することを提案した。
【研究の意義と今後の展開や社会的意義など】
水頭症の名称は、専門家が自分の経験した症例シリーズに基づいて分類を試みたり、従来の分類には属さないと考えられる水頭症を発見したとする研究者が論文内で新たに命名する等が歴史的に繰り返され、名称が乱立していたため、有病率や診断・治療法の確立、病態生理の解釈の妨げとなっていた。さらに、最も患者数の多い特発性正常圧水頭症(iNPH)は、アルツハイマー病やパーキンソン病と並んで高齢者のcommon diseaseとして認知されるべき疾患だが、名称の複雑さ故に周知されず、未だに見逃されることが多いことが課題となっている。本研究により、大人の慢性水頭症を7つに分類し、特発性正常圧水頭症(iNPH)をハキム病と名称を改めることで、アルツハイマー病やパーキンソン病と同等なレベルまで国際的な認知度を高め、症状が重症化するまで発見されない患者を減らすことに貢献したいと考えている。
【論文タイトル】
Classification of chronic hydrocephalus in adults: systematic review and analysis
【著者】Mats Tullberg 1)、Ahmed K Toma 2)、山田 茂樹3)、Katarina Laurell 4)、宮嶋 雅一5)、Laurence D Watkins 2)、Carsten Wikkelsø 1)
所属 1;Gothenburg大学 Sahlgrenska Academy、脳神経内科、スウェーデン
2;National Hospital for Neurology and Neurosurgery、脳神経外科、イギリス
3;名古屋市立大学 脳神経外科学講座
4;Uppsala大学 脳神経内科、スウェーデン
5;順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター
【掲載学術誌】
学術誌名:World Neurosurgery
DOI番号:10.1016/j.wneu.2023.12.094
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1878875023018260?via%3Dihub
【研究に関する問い合わせ】
名古屋市立大学 大学院医学研究科 脳神経外科学 講師 山田 茂樹
住所:〒467-0001 愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1
TEL: 052-853-8286 FAX:052-851-5541
E-mail:shigekiyamada393@gmail.com
【報道に関する問い合わせ】
名古屋市立大学 病院管理部 経営課
愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
TEL:052-858-7528 FAX:052-858-7537
E-mail:hpkouhou@sec.nagoya-cu.ac.jp
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